世界経済の荒波に揉まれる鉄鋼業界の行方に、いま多くの視線が集まっています。米中の貿易摩擦や中東の緊迫した情勢など、不安要素が重なる中で市場の停滞が続いてきました。こうした現状を打破するヒントを探るべく、鉄スクラップを再利用して製品を生み出す電炉メーカーの最大手、東京製鉄の西本利一社長に現状の分析と今後の展望を伺いました。
インターネット上では「製造業の景気動向を占う上で、鉄鋼の動きは無視できない」「五輪後の需要回復に期待したい」といった、先行きを注視する声が数多く寄せられています。西本社長のお話からは、現在の市況の落ち込みが巷で噂される「中国の減速」だけが原因ではないという、意外な事実が浮かび上がってきました。
国際的な価格下落の真相とアジア市場の現在地
西本社長によれば、市場混乱の引き金は中国ではなく、欧州などの世界的な経済減速に伴うインドやロシアからの輸出急増にあるとのことです。急激な成長の鈍化によって自国内で余剰となった鉄鋼が、国際市場へ一気に流れ込んだことが価格急落を招きました。アジア圏での取引価格は一時的に大きく下落し、足元ではやや持ち直しているものの、これは供給側の圧力が和らいだだけに過ぎません。
実質的な需要が回復したわけではないため、本格的な市況の反転には自動車生産の再拡大などが不可欠であると西本社長は指摘します。ただ、ベトナムなどの新興国が新たな需要の担い手として台頭しており、地政学的なリスクが解消されれば、再び成長軌道へ戻るポテンシャルは十分に秘めていると言えるでしょう。
2020年の国内需要と環境問題を解決する「電炉」の可能性
国内に目を向けると、オリンピック関連の工事が一段落したことで、建設現場での需要は足踏み状態が続いています。西本社長は、都市の再開発や防災対策といった新たな需要が本格化するのは、五輪が閉幕した後の2021年に向けてになるとの見通しを示されました。2020年前半は耐え忍ぶ時期になりそうですが、コスト面を考慮すると製品価格がここから大きく下落する可能性は低いと考えられます。
一方で、これからの鉄鋼業界において外せないキーワードが「環境対応」です。ここで注目したいのが、鉄スクラップを電気の力で溶かして新しい鉄に再生する「電炉(電気炉)」という生産方式です。鉄鉱石から鉄を募る従来の方法に比べ、電炉は製造時の二酸化炭素排出量を劇的に抑えられるという圧倒的なメリットを持っています。
日本国内には、これまでに蓄積された膨大な鉄の資産が存在しており、毎年3000万トン近くがスクラップとして発生しています。この資源を国内で循環させる電炉の活用こそ、持続可能な社会に不可欠な仕組みです。東京製鉄が掲げる、2050年までに二酸化炭素排出量を大幅に削減するという高い目標は、これからの製造業が歩むべき理想的な姿を示していると感じます。
これからの時代、単に景気の波を読むだけでなく、地球環境にどれだけ貢献できるかが企業の価値を左右します。不透明な情勢が続きますが、環境負荷の低い電炉の技術を武器に、同社が日本の資源循環を力強く牽引していくことを期待して止みません。
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