もしも1億円の宝くじが当選したら、あなたならどのような夢を叶えたいですか。豪華なマイホームの購入や、優雅な世界一周の旅など、想像するだけで胸が躍るような贅沢を思い描く人は少なくありません。ネット上でも「仕事を辞めて南の島へ移住したい」「嫌いな上司に見せつけてやりたい」といった、ユーモアと切実さが入り混じったリアルな妄想が飛び交い、常に盛り上がりを見せる定番のテーマとなっています。しかし、そんな誰もが憧れる大金も、人生という長いスパンで冷静に見つめ直してみると、実は意外な真実が隠されているのです。
私たちが思い描く華やかな夢に対して、専門家は非常にシビアな現実を突きつけます。大都市圏で理想の邸宅を構えようとすれば、1億円では到底足りないことも多く、維持費や税金の負担だけでもその後の生活を圧迫しかねません。また、家族で最高級の船旅を満喫すれば、1度の旅行だけで大半を使い切ってしまう可能性すらあります。憧れのハワイでの海外移住にしても、近年の物価高騰を考慮すると、コンドミニアム1軒を購入するだけで資金が底を突いてしまうのが現実なのです。夢の超大金に見えても、使い道次第では一瞬で消えてしまう儚さを持っています。
ここで、私たちが将来受け取る「公的年金」という身近な数字に目を向けてみましょう。仮に2020年01月16日現在の試算として、65歳から毎月25万円の年金が支給され、100歳まで健康に生きると仮定します。この場合、生涯で受け取る総額はなんと約1億500万円に達するのです。毎月25万円の生活費は決して贅沢な暮らしとは言えませんが、ごく普通の日常を100歳まで維持するためだけに、実は1億円という大金が自然と消費されています。つまり、私たちが日常的に耳にする1億円という金額は、生涯の生活を支えるための「標準的な社会のリアル」に過ぎないのです。
さらに視野を広げて、会社員が生涯に稼ぐ賃金について考えてみます。平均的な年収が700万円の人が、22歳から67歳までの45年間実直に働き続けた場合、その生涯賃金の総額は3億円にものぼります。これは、1億円の宝くじに3回も当選するのと同等の価値があると言えるでしょう。このように具体的な数字で示されると、自分自身にそれほど大きな経済的価値があることに驚くのではないでしょうか。しかし、多くの労働者は日々の生活に追われ、自分が将来的にこれほど莫大な資産を生み出す存在であるという事実に気づいていないのが現状です。
もし企業のトップから入社時に「あなたには退職までに3億円を支払います」と宣言されたら、誰もが強いモチベーションを抱くはずです。ところが、それが「月給〇万円」という細分化された表現に変わった途端、途端にありふれた日常の数字として認識されてしまいます。このように、同じ価値を持つものであっても、表現の切り口や時間軸の捉え方によって受け手の印象は劇的に変化するのです。私たち人間は、長期的な時間感覚とそれに伴う現実を、客観的かつ適切に把握することが驚くほど苦手な生き物だと言えます。
こうした心理的なバイアスを打破し、物事の実態を正確に把握するアプローチを、心理学やマネジメントの領域では「KYR(Know Your Reality:現実を知る)」と呼びます。1億円という数字の響きだけに惑わされず、日々の収入や将来の蓄えと紐づけて冷静に計算してみることで、過剰な期待や妄想を上手にコントロールできるようになります。現代を生きるビジネスパーソンにとって、このKYRの視点を取り入れ、自分の感情や願望を客観的な事実に基づいてセルフコントロールしていく姿勢は、激動の時代を生き抜くために不可欠なスキルであると私は確信しています。
自身の意見を過不足なく相手に伝えるコミュニケーション技法を「アサーティブ」と言いますが、近年では単に主張するだけでなく、自己を適切に抑制する概念も含まれています。これを社内の人間関係、特に上司とのやり取りに応用してみてはいかがでしょうか。企業活動の現場では、毎日の売上や週ごとの収益といった、時にストレスの要因となるシビアな数字が飛び交います。目標を達成できず、周囲の期待に応えられない場面も当然出てくるでしょう。そんな時こそ、このアサーティブなコミュニケーションが最大の武器になります。
業績が伸び悩んでいる時、その事実を隠さずに「現在の成果は目標を下回っています」と、ありのままの現実を率直に報告するのです。一見すると勇気の要る行動ですが、事実を早期に共有することで、自身の精神的なプレッシャーを和らげる効果があります。さらに、報告を受けた上司の側にも「目先の失敗にとらわれず、長期的な視点で対策を練ろう」という建設的な思考が芽生えやすくなります。現実から目を背けず、誠実に向き合うKYRの姿勢こそが、ビジネスにおける信頼関係を強固にし、困難な状況を打破する鍵となるでしょう。
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