鹿児島県霧島市に拠点を構えるキリシマ精工が、ものづくり産業に新たな風を吹き込んでいます。2006年の創業以来、半導体や電子部品の精密金属加工で磨き上げてきた高度な技術を武器に、2018年には画期的な医療機器の発売へと漕ぎ着けました。それは、歯の裏側に装着する最先端の歯列矯正器具です。審美性と機能性を両立させたこの製品は、歯科医療の現場からも熱い視線が注がれており、同社を支える新たな柱として注目を集めています。
この歯列矯正器具における最大の強みは、その圧倒的な快適性にあります。従来の鋳造と呼ばれる、溶かした金属を型に流し込んで作る製法とは異なり、同社は高精度の切削技術を採用しました。金属の塊から直接削り出すことで、驚くほど薄く、丸みを帯びた形状を実現したのです。これにより、口の中に装着した際の違和感や痛みが劇的に軽減されるため、患者様の負担を大きく減らすことに成功しました。
SNS上でもこの技術に対する反響は大きく、「歯の裏側矯正は痛いイメージがあったけれど、これなら試してみたい」「地方の小さな工場が医療の未来を変えるなんて素晴らしい」といった驚きと期待の声が多数寄せられています。このように多くの人を惹きつける背景には、同社が逆境の中で生み出した独自の「カーブカット工法」という画期的なイノベーションが存在するのです。
限られた設備から生まれた奇跡の「カーブカット工法」
創業時のキリシマ精工は、かつて勤務していた企業の倒産を経て、当時の仲間たちが結集して立ち上げた企業でした。スタート時に揃えられたのは、譲り受けた5台のマシニングセンターと呼ばれる自動切削工作機械のみです。複雑な加工ができる高額な最新装置を導入する資金的な余裕がない中、西重保社長らは「今ある機械だけで何ができるか」を文字通り血の滲むような思いで考え抜きました。
そうした極限の状況下で誕生したのが、通常なら何段階もの工程を要する複雑な加工を、わずか1工程だけで完結させるカーブカット工法です。この技術を支える鍵は、加工する素材を機械に固定するための「治具」と呼ばれる補助工具の工夫にあります。同社では、製品ごとに最適な治具を導き出すため、社内で徹底的なミーティングを重ねており、これこそが他社の追随を許さない技術の源泉です。
工程を1つに集約できるカーブカット工法には、納期の大幅な短縮や製造コストの削減といった圧倒的なメリットがあります。さらに、機械の操作がシンプルになるため、製品の品質が安定し、不良品が減ることで歩留まり、つまり良品が採れる割合も劇的に向上するのです。西重社長はこの独自の強みを全国の展示会へ積極的に持ち込み、技術力の高さをアピールし続けています。
展示会が引き寄せた歯科医師との共同開発とこれからの展望
展示会では、1枚の金属板から削り出されたチェーンや、わずか0.5ミリメートルサイズの超極小サイコロといった見本品が並びます。これらを一般的な3軸加工機だけで削り出したと説明すると、同業者からも驚愕の声が上がるそうです。こうした地道な営業活動が実を結び、現在では多くの大手企業の研究開発部門から、秘密保持契約を結んだ上での試作や加工の依頼が殺到しています。[/p>
実は、前述した歯列矯正器具の開発が始まったのも展示会がきっかけでした。キリシマ精工の超絶技巧に目を留めた福岡市の矯正歯科医から「頭の中にあるアイデアを形にしてほしい」と懇願され、5年もの歳月をかけた共同開発がスタートしたのです。開発の過程で同社は医療機器製造業の登録も取得し、受注の波が激しい半導体分野から、安定需要が見込める医療分野への本格的なシフトを進めています。[/p>
日本の優れたものづくり精神が、医療現場の課題を解決していく姿には深く感銘を受けます。制約を言い訳にせず、知恵と工夫で独自の価値を生み出した同社の姿勢は、すべての中小企業が目指すべき理想像でしょう。今後は手術用器具などのさらなる高付加価値分野へ挑戦し、「霧島から世界へ!メード・イン・キリシマ」という大志に向けて進む同社の挑戦を、これからも応援していきたいプロフェッショナルな企業です。
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