戦国時代の厳しい乱世を生き抜くために、武士たちは様々な工夫を凝らした陣中食(じんちゅうしょく)を用意していました。例えば、傷口の消毒にも重宝された梅干しや、お湯に溶かして食べる味噌玉、古くから親しまれてきた干飯(ほしいい)などが代表的です。しかし、実はこれらよりもさらに過酷な極限状態を想定して作られた、究極のサバイバル食が存在することをご存じでしょうか。それこそが、闇に生きた隠密たちの命を支えた「忍者めし」なのです。ネット上でも「リアルな兵糧丸ってどんな味?」「現代のサプリメントみたいで興味深い」と大きな注目を集めています。
この神秘に満ちた食文化に科学のメスを入れたのが、三重大学の名誉教授である久松眞氏です。久松氏はこれまで、植物の細胞壁の主成分であるセルロースを中心とした食品科学や生物化学の研究に携わってきました。同大学が忍者の本格的な研究を開始したことをきっかけに、食の観点から科学的に忍者の実態へ迫ろうと決意したそうです。しかし、その再現への道のりは一筋縄ではいきませんでした。忍者の術や知識はもともと口伝(く伝言による秘密の伝承)であり、レシピが厳重に秘匿されていたため、当時の文献を読み解く作業は困難を極めたといいます。
秘伝の忍術書から蘇る3つの「丸」
多種多様な流派が存在する中で、久松氏が大きな手がかりとしたのが、1676年11月4日にまとめられた伊賀・甲賀の忍法網羅書「万川集海(まんせんしゅうかい)」でした。ここに記された調理法を基に、直径2〜4センチほどの球状の固形食である「兵糧丸(ひょうろうがん)」「飢渇丸(きかつがん)」「水渇丸(すいかつがん)」の3種類が見事に再現されたのです。驚くべきことに、4、5年前に作られたものであっても問題なく食べられるほどの優れた保存性を誇ります。これらは単なる食べ物ではなく、現代でいう精神安定剤や整腸薬、のど薬のような漢方医学的効果を備えていました。
例えば「兵糧丸」は、材料のほとんどが砂糖で構成されており、過酷な任務を支える即効性の高いエネルギー源となります。ここに、疲労回復を促すハスの実(蓮肉)や朝鮮人参、食欲を増進させるナガイモ(山薬)、血行を促進して痛みを和らげるシナモン(桂心)、そして免疫力を高めるハトムギ(ヨクイニン)といった生薬(しょうやく:天然の植物などから作られる生薬)が絶妙なバランスで配合されているのです。SNSでは「当時にしてこの栄養学的な完成度は凄すぎる」「現代のカロリーバーの先駆けだ」といった驚きの声が続出しています。
また、砂糖を含まずに薬の風味が強い「飢渇丸」は、強力な胃腸薬としての側面を持っていたと考えられます。兵糧丸の成分に加え、下痢止めとなるそば粉や、毒消し効果のある甘草(かんぞう)が混ぜられており、まさに緊急時の医薬品でした。現代の精神医学でも、脳と腸の密接な関係から胃腸薬の成分がメンタルケアに重用されることが多く、先人の深い知恵には脱帽するばかりでしょう。一方の「水渇丸」は、梅干しの酸味で唾液を出させて喉を潤し、せき止めの効果がある麦門冬(ばくもんどう)を配合することで、水のない場所での渇きを癒やしました。
「忍者めし」から見えてくる忍者の真実と現代への応用
この研究によって、映画のような黒装束で激しく立ち回る姿とは異なる、忍者の「真の姿」が浮かび上がってきました。彼らの本質は、国境の険しい山道を旅し、常に敵地で命を狙われる緊張感の中で隠密行動をとる地道な情報収集のスペシャリストです。忍者めしは、そんな彼らの消化器を守り、極限のプレッシャーを和らげてリラックスさせるためのメンタルケアフードだったのでしょう。これほど高価な漢方薬をふんだんに扱えたということは、当時の大名からそれに見合うだけの極めて高い報酬を得ていた強力な専門職集団だったことも想像にかたくありません。
編集部としても、この歴史的な知恵は現代を生きる私たちにこそ必要だと強く感じます。2020年1月29日現在、久松氏は地元の洋菓子店と協力し、忍者めしのエッセンスを取り入れた新しいお菓子の開発にも成功しています。情報過多でストレスの多い現代社会において、心を落ち着かせ、体を芯から癒やしてくれる「忍者めし」のメカニズムは、今後さらに多くの人々から求められる存在になるに違いありません。時空を超えて蘇ったサバイバル食の知恵を、日々のパフォーマンス向上に活かしてみてはいかがでしょうか。
コメント