2020年1月31日、世界経済が揺れる中でアメリカの経済状況に対する懸念が高まっています。先週にスイスで開催された世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」では、ドイツ銀行のサロンに「成長は幻想か」というネオン装飾が掲げられ、多くの参加者の目を引きました。トランプ米大統領は「アメリカは史上空前のブームにある」と胸を張りますが、市場の実態を冷静に見つめる一流の投資家たちの視線は非常に冷ややかです。現在の米国経済は過去最長の拡大期を記録しているものの、これを真の好景気と呼ぶには無理があるでしょう。
実際のデータがその厳しさを物語っています。米労働統計局が発表した2019年7月1日から2019年9月30日までの実質国内総生産(GDP)の伸び率は、前期比の年率換算で2.1%に留まりました。これはオバマ前大統領の2期目の平均値である2.4%を下回る数値です。トランプ政権は大規模な減税を断行しましたが、その結果として平時では過去最悪となる1兆ドルの財政赤字を招いてしまいました。巨額の資金を投じたにもかかわらず、経済の基礎体力を示す実質的な効果はあまりにも精彩を欠いているのが現状です。
さらに深刻なのは、企業の未来への投資が冷え込んでいる点です。米商務省経済分析局によると、2019年に入り設備投資は減少に転じました。SNS上でも「減税で浮いたお金が自社株買い(企業が自らの資金で株を買い戻すこと)ばかりに使われ、労働生産性を高める研究開発に回っていない」と、目先の株価対策に終始する企業姿勢への批判が相次いでいます。こうした不健全な資金の流れが、株価が高騰する一方で、安全資産とされる債券や金にも資金が集中するという奇妙な市場の二分化を生み出しているのです。
リスクを抱えながら踊り続ける市場と経済界の恐るべき心理
現在の状況について、ある有力な投資家は「研究開発やインフラへの投資不足がこのまま続けば、いずれ資金を引き揚げる」と本音を漏らしています。しかし、市場に資金が流れ込んでいるうちは投資を続けざるを得ないのが現実であり、これはまさに「曲が流れている間は踊り続けなければならない」というバブル直前の心理そのものです。トランプ大統領はFRB(米連邦準備理事会)に対してさらなる利下げや、他国のようなマイナス金利の導入を求めていますが、政権の経済顧問であるクドロー氏はこれに否定的で、足元の政策の足並みは揃っていません。
それにもかかわらず、多くの企業経営者がトランプ大統領を支持するのは、米中貿易協議の「第1段階合意」や「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の進展による一時的な安堵感があるからです。ですが、トランプ大統領の誇示とは裏腹に、米国の貿易赤字は2016年の5030億ドルから2018年には6280億ドルへと拡大し、2019年も9月末の時点で4730億ドルに達しています。ダボス会議では、経済学者のジョセフ・スティグリッツ氏の妻がこの不都合な事実をまとめたパンフレットを配布し、会場から連れ出される一幕もありました。
私は、経済界がこれほどまでにトランプ大統領を支持する背景には、富の再分配を主張する左派政権の誕生を恐れるあまり、民主主義の根幹や倫理を犠牲にしても目先の利益を選ぼうとする危険な心理が働いていると感じます。歴史学者ロバート・パクストン氏が指摘したように、かつて欧州で過激な政治思想が台頭した際も、経済界は自らの富を守るためにそれを容認しました。目先の成長という甘い幻想のために、アメリカが大切にしてきた普遍的な価値観が損なわれていく現状に対して、強い危機感を抱かざるを得ません。
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