スイス東部で開幕した世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」に合わせ、2020年1月21日にライフサイエンス(生命科学)の未来を占う熱い討論会が開催されました。その舞台で基調講演に登壇したのが、京都大学iPS細胞研究所の所長を務める山中伸弥氏です。山中氏は、かつて父親が病に倒れたことをきっかけに医学の道を志したという、自身の原点となるエピソードを披露されました。この強い想いが、のちにノーベル賞へとつながる革新的な研究の原動力になったのでしょう。
現在、人工多能性幹細胞(あらゆる細胞に変化できる万能細胞)であるiPS細胞を用いた医療は、基礎研究の段階からいよいよ患者へ届ける普及期へとシフトしつつあります。実際に、具体的な臨床研究(人間を対象とした病気治療の試験)の事例も次々と報告されるようになりました。しかし、この素晴らしい医療技術を広く一般に届けるためには、まだ大きな壁が存在します。それこそが、今回の講演で山中氏が最も強調されていた「製造コストの削減」と「開発に要する時間の短縮」という極めて現実的な課題なのです。
ネット上やSNSでもこの話題は大きな反響を呼んでおり、「誰もが受けられる価格になって初めて本当の医療」「山中先生の熱意を応援したい」といった感動や期待の声が溢れています。革新的ながん治療薬などが登場しても、価格が家1軒分ほどに高騰しては社会に受け入れられません。山中氏は、新薬が「手ごろな価格」で提供される重要性を強く訴え、その解決策として民間企業との緊密な連携を挙げました。官民が「ワンチーム」となり、お互いの強みを活かしてこのコスト問題に挑む姿勢を示されています。
私個人の視点としても、優れた科学技術が一部の富裕層だけのものになってはならないと感じます。命の格差をなくすために奔走する山中氏の思想には、深く共感せざるを得ません。現在、研究所が備蓄した高品質なiPS細胞を企業へ提供する見返りに、貴重な研究データを受け取るという相互協力を進めているそうです。日本の伝統的な製薬大手である武田薬品工業などとの共同プロジェクトも順調に推移しており、日本の医療界が一体となって難病克服へ突き進む姿は、非常に頼もしく映るでしょう。
最先端テクノロジーが加速させる医療革命
その後に開かれたパネルディスカッションでは、ライフサイエンスの進化をさらに加速させるための鍵として、人工知能(AI)やビッグデータ(膨大な情報の集積)の活用に期待が集中しました。武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長は、最新技術の導入こそが研究開発のスピードを飛躍的に高め、結果として大幅なコストカットを実現すると力説されています。デジタル技術と医学の融合は、もはや世界の潮流であり、次世代の医療を支える不可欠なインフラとなるに違いありません。
また、健康分野へのAI活用を推進するNECの遠藤信博会長は、単なるデータの蓄積だけでは無意味であり、それを高度に分析してこそ莫大な価値が生まれると指摘しました。さらに、大日本住友製薬の木村徹取締役からは、iPS細胞を使ったパーキンソン病(脳の異常で体が震える難病)の治療がすでに臨床段階にあり、あと数年で実用化にこぎ着けられるという非常に明るい見通しも語られています。難病に苦しむ世界中の患者にとって、まさに一筋の光となる発言でしょう。
しかし、日本の未来は決して楽観視できるものではありません。現在、世界中で再生医療市場を巡る覇権争いが激化しています。特に米国などでは、不妊治療の胚から作られる受精卵由来の万能細胞「ES細胞(胚性幹細胞)」を使った臨床試験が活発に動き出している状況です。日本が誇るiPS細胞技術が世界をリードし続けるためには、研究者だけでなく、政府や民間企業が文字通り一丸となった強固なサポート体制が求められます。今後の動向から、ますます目が離せませんね。
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