自宅でも職場でもない、生活における重要な第三の場所を意味する「サードプレイス」という概念がいま、ビジネスや地域振興の新たな起点として熱い注目を集めています。飲食店や駅、あるいは図書館のように昔から身近にあった場所が、異なる経験や専門性を持つ人々を結びつけ、働き方改革をも牽引する重要な役割を担うようになりました。インターネット時代だからこそ、逆にリアルの場で対面することの価値が再評価されているのです。
2020年1月上旬の夜、東京・赤坂にある20代から30代専用の会員制スナック「3rd」は、約20人の熱気あふれる来店客で満席となっていました。そこには起業家や投資家、フリーランスのエンジニアたちが集い、互いの技術や経験を掛け合わせて新たなシステム開発などの協業が次々と生まれています。店主の山崎大輝さんが2019年10月にオープンさせたこの店は、クラウドファンディングで資金を募るなど、現代的な手法で設立されたまさに「ビジネスを生み出すための場所」です。
サウナやスナックが変えるビジネスの風景
実は、全国に約10万軒あるとされるスナックは、多くの若者にとってのサードプレイスとして機能し始めています。中小企業基盤整備機構の調査でも、パブを含めたこれらの場所への高い利用意向が示されており、特に20代から30代の層が交流の場を求めていることは明らかです。従来の「夜の店」というイメージを超え、こうした場所がビジネス談議に花を咲かせるイノベーションの苗床になっていることは非常に興味深い変化ではないでしょうか。
さらに、驚くべきことにサウナもまた、ビジネスの新たな出発点となっています。2019年末から日本航空が開始したキャンペーンは、サウナ好きの企業人らが集うコミュニティの知見を結集させた成果です。新宿の「テルマー湯」などでリラックスして交わされる対話から、大規模なイベント計画が持ち上がることもあるそうです。リラックスした空間が硬直化した頭をほぐし、クリエイティブなアイデアを引き出すきっかけになっているのだと私は感じています。
経済効果と「夜のGDP」という新たな視点
都市の競争力に精通するA・T・カーニー日本法人の梅沢高明会長によれば、東京における飲食やレジャーなど「夜のGDP(域内総生産)」は約3兆円規模に達しているそうです。さらに1兆円もの伸び代が期待されており、知的労働者が結びつく場所をいかに増やせるかが、今後の経済成長の鍵を握っているといっても過言ではありません。SNS上でも「サウナで商談が決まった」「スナックでの出会いから新しいプロジェクトが始まった」といった投稿が散見され、その実用性が広く認知され始めています。
こうした動きは、夜だけでなく昼のビジネスシーンにも広がっています。五反田の飲食店街では、昼の時間帯にスナックを「コワーキング昼スナックゴタンダ」として開放する試みも行われています。運営者自身が公認会計士や税理士の資格を持ち、来店客の事業課題を聞きながら適切な人材を紹介したり、自身の専門性を活かした相談業務につなげたりしています。オンとオフの境界をあえて崩すことで、より有機的なつながりが生まれているのです。
イノベーションを生むサードプレイスの未来
もともとサードプレイスとは、米国の都市社会学者レイ・オルデンバーグ氏が提唱した概念で、人々が集い語り合う居心地の良い空間が都市の魅力を高めると説いたものです。東京工業大学の妹尾大教授も指摘するように、異業種の人々が予期せぬ形で出会う場所こそが、これからの革新を生む舞台となるでしょう。私個人としても、効率や生産性ばかりを追求する仕事環境から一歩踏み出し、こうしたゆとりある空間で多様な価値観に触れることこそが、個人の可能性を大きく広げる最短距離だと確信しています。
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