大大阪の熱狂が生んだ伝説の味と岡本一平が描いたモダンな街の肖像

2020年2月6日現在、各地で「B級グルメ」という言葉が定着し、地域ごとの個性的な食文化に注目が集まっています。しかし、その先駆けとも言える存在が、かつての心斎橋近くにあった「しる市」をご存知でしょうか。ここは、牛蒡の笹がきが入った味噌汁に、泥鰌や鯨皮といった具材を選んでトッピングできるという、まるで現代のスープ専門のような先鋭的な名店でした。

文豪・織田作之助の名作『夫婦善哉』にも登場するこの汁屋は、多くの文化人に愛されてきました。実は、芸術家・岡本太郎の実父であり、漫画と文章を融合させたスタイルで一世を風靡した岡本一平も、この店で温かい一杯をすすった一人です。庶民の日常に寄り添う味が、当時は最高のご馳走だったのでしょう。

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「大大阪」の誕生と一平が捉えたモダンな街の顔

1925年、大阪市は大規模な市域拡張を経て、当時の東京市を抜き、人口で日本最大、世界でも第6位を誇る大都市「大大阪」へと変貌を遂げました。この急成長する都市の魅力を発信するため、大阪朝日新聞は岡本一平に「大大阪」の肖像画の制作を依頼します。一平は街を歩き回り、全15回の連載を通じて、新時代の大阪を「大大阪君」というキャラクターに見立てて描き出しました。

一平の描いた「大大阪君の似顔の図」は実に斬新です。街の輪郭を広大な新市域になぞらえ、通天閣をエッフェル塔に見立てた鼻を配置しました。さらに大根畑をベレー帽に、煙突を細巻の煙草に置き換えるという、極めてモダンな表現です。市民の瞳は、商売に邁進する「はたし目」と、遊楽地で楽しむ「うれしそうな目」で描かれ、フランスの労働者のような粋な雰囲気を纏っていました。

文化人も魅了した大阪のソウルフード

一平はこの連載の最終回、東京へ帰る前に担当者と共に「しる市」を訪れています。財布が軽くなっても、どうしても最後にもう一度味わいたいと思わせる魅力が、そこにはあったのです。当時の価格で一杯八銭。この手頃でありながら奥深い一杯の汁は、麻生路郎や宇野浩二といった名だたる作家たちにも深く愛され、まさに大阪を象徴するソウルフードとして街に根付いていました。

現代の私たちがSNSで話題のグルメを競うように探すのと同様に、かつての人々もこうした個性的な名店を愛し、誇りを持っていました。効率ばかりを追い求めがちな現代だからこそ、一平が愛したこの一杯の汁物のように、人々の生活と文化が密接に溶け合った、人間味あふれる場所の価値を再発見したくなります。今の私たちの街にも、未来へ語り継ぐべき「味」があることを忘れたくないものですね。

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