マイク1本だけでステージに立ち、独自のユーモアで観客を魅了する「スタンダップコメディ」が、今まさに日本やアジア圏で熱い視線を集めています。欧米では紳士の夜の嗜みとして定着しているこの文化ですが、動画配信サービスの普及により、その波が急速に広がっているのです。SNSでも「忖度だらけのテレビに比べて刺激的で面白い」「直球の風刺が痛快すぎる」といった声が続々と上がっており、新しいエンターテインメントの形として感度の高い大人たちの間で話題を呼んでいます。
2020年1月の中旬の夜、東京のJR阿佐ケ谷駅前にあるバーのイベントスペースは、熱気と爆笑に包まれていました。「スタンダップ・トーキョー」が開催した日本語ライブでは、インド系米国人のコメディアンが、文化による排便の音の違いという大胆な下ネタを披露したのです。さらにイギリス出身の主宰者であるBJ Foxさんが、なかなか結論の出ない英国のEU離脱を絶妙に皮肉ると、会場のボルテージは最高潮に達しました。
ここで使われる「風刺」とは、社会の矛盾や人間の愚かさをユーモアや皮肉を交えて批判的に表現する手法のことで、これこそがこのコメディの真骨頂と言えます。初めて観劇した22歳の女子大生も、日本社会を鋭く捉えた笑いに、思わず納得して笑ってしまったと語っていました。テレビのお笑いとは一線を画す、ルール無用でリアルな臨場感こそが、多くの人々を惹きつけてやまない最大の原動力なのでしょう。
最近では、観客として楽しむだけでなく、自らマイクを握る日本人も増えています。昨年の夏から舞台に立っているという日本語教師の女性は、日常で遭遇したセクハラ体験をネタに昇華させているそうです。嫌な思い出を笑いに変えて吹き飛ばす快感は、一度経験すると病みつきになると彼女は明かしてくれました。毎週のように新ネタを考案し、自分をありのままに表現できる場として、このステージを活用しているのです。
現在、事前申し込みなしで誰でもステージに飛び入り参加できる「オープンマイク」と呼ばれる自由なスタイルのイベントが、東京の各地で急増しています。浅草橋のゲストハウスでは、外国人旅行者や熱意ある日本人が立ち見が出るほどの盛況ぶりを見せていました。ここで3年前から挑戦を続けている29歳の男性は、タブーが存在しないからこそ、世界中の人々と笑いで繋がることができると、その手応えを熱く語ります。
現代の日本人は、日々の生活の中で多くのモヤモヤやストレスを抱えて生きているのではないでしょうか。だからこそ、じっくりと聞き込むことができ、知的な刺激を得られる大人の笑いへのニーズが高まっているのだと感じます。テレビの賑やかなお笑いも素敵ですが、時にはこうした毒気のある洗練されたジョークに耳を傾け、社会の理不尽さを笑い飛ばす心の余裕を持ちたいものです。
日本スタンダップコメディ協会を設立したタレントのぜんじろうさんは、自分の意見や独自の視点をそのまま笑いに反映できる点が、日本の伝統的な漫談とは大きく異なると分析しています。芸能事務所に所属するなどの面倒な下積みを経なくても、面白いネタさえあれば誰もが主役になれるのです。組織に縛られず、個人の力で活躍する現代の生き方とも見事にシンクロしており、この熱狂はさらに加速していくでしょう。
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