学校の理科室や研究室で見かけるメスシリンダーやピペット。これらは「ガラス体積計」と呼ばれ、液体の体積を正確に測定するための必須アイテムです。実はこの分野で国内トップシェアを誇る企業が、福岡県みやま市にあります。それが1937年創業の老舗メーカー「クライミング」です。同社の主力拠点であるみやま事業所では、伝統的な職人技と独自開発の機械を融合させた、驚きのものづくりが行われています。
工場の内部に足を踏み入れると、1400度から1500度にも達するガスバーナーの激しい炎が目を引きます。かつてはすべて熟練の職人が手作業で行っていた、ガラス管の切断やフラスコを膨らませる工程ですが、現在は独自に開発した30台以上の自動機械が担っています。この高度な機械化による効率化とコスト削減の取り組みに対し、SNSでは「日本のものづくりを支える素晴らしい技術力」「職人技の自動化は熱い」と、多くの称賛の声が上がっています。
特に感動的なのは、体積計の命とも言える「目盛り入れ」の工程です。ガラス管は一見どれも同じに見えますが、実は内径にわずかな個体差があります。そのため、かつては手作業で水を入れながら目印を書き写していました。現在は、ガラス管をセットするだけで正確な量の水を自動注入する機械を開発し、作業員がそれに合わせて目盛りを引くスタイルを確立しています。これにより、誤差がわずか1ミリリットルあたり0.006ミリリットル以内という極めて高い精度を実現しているのです。
ここで注目したい専門用語が「OEM」です。これは他社ブランドの製品を製造することを意味しますが、クライミング社はこのOEMも含めて、国内のメスシリンダー市場で実に6割から7割という圧倒的なシェアを占めています。浜地信社長は、数百円単位のカタログ製品でも生き残れたのは、自分たちでアイデアを出し合って機械を自作してきたからだと誇らしげに語ります。逆境を跳ね返すこの現場の知恵と言い訳をしない姿勢には、ビジネスのヒントが詰まっています。
時代の変化と共に、病院の検査器具がプラスチック製に変わるなど、ガラス体積計を取り巻く環境は決して平坦ではありませんでした。さらに、小中学校での理科実験の減少や、大学・研究機関での分析自動化といった逆風も押し寄せています。しかし同社は、理化学分析用ガラス製品や板ガラス加工の企業を次々と買収し、自らの技術の幅を広げることで、2019年6月期には売上高約11億5000万円を達成しました。
私は、こうした時代に合わせた「柔軟な変革」こそが、中小企業が生き残るための最大の武器であると考えます。伝統に固執するだけでなく、最新のニーズを捉えて自らをアップデートしていく姿勢には深く感銘を受けます。同社は現在、コーヒーメーカーや最先端の分析機器に使用されるガラス製部品の製造にも参入しており、さらなる増産へ意気込んでいます。無限の可能性を秘めたガラスという素材と共に、みやま市から世界へ挑む同社の未来が非常に楽しみです。
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