普段私たちが何気なく使っている画びょうですが、その小さな体に激動の歴史が刻まれていることをご存じでしょうか。近現代史研究家である木村源知氏が、1997年4月のある日、高校の入学式で古い校舎の壁に見つけた黒光りする画びょうとの出会いが、20年以上にわたる壮大な収集旅の始まりでした。SNS上でも「身近な文房具から戦争のリアルな生活が見えてくるなんて驚き」「歴史の生き証人だ」と、その深い世界観に感銘を受ける声が続出しています。
もともと明治時代に日本へ伝わった画びょうは、真ちゅうなどの金属で作られていましたが、戦時中に深刻な物資不足へと陥りました。そこで登場したのが、金属の代わりとして身の回りの素材を活用した「代用画びょう」です。木村氏は高校時代に書籍でその存在を知り、学校の物置や古物市を這うように探しまわったといいます。その後、進学先の九州大学でも閉鎖予定の古い校舎から貴重な品々を発見し、現在はなんと1万箱を超えるコレクションを誇っています。
レコード盤が画びょうに変身!驚きの加工技術と歴史の証明
戦時中に使われた代用素材は、セルロイドや竹、木、そして紙など多岐にわたりますが、なかでも注目すべきはレコード盤製の画びょうです。セルロイドとは、世界初のプラスチックであり、熱を加えると加工しやすく当時はおもちゃなどにも広く使われていた合成樹脂を指します。物資が底を突くなかで、当時の人々は強度のある素材を求めて必死に試行錯誤を重ねていたのでしょう。不自由な状況下でも諦めない職人たちの執念が、この小さな文房具からひしひしと伝わってきます。
このレコード盤の画びょうには、当時の最先端の知恵が詰まっています。通常の画びょうは2枚の板で針を挟み込みますが、レコード盤は厚みがあるため、熱して柔らかくした素材に直接針を埋め込むという手軽な方法が採られました。さらに、約4300個中136個には、かつてのレコードのレーベル(中央の紙レーベル)の断片が残っていました。木村氏が10年をかけて実物と照合した結果、大正時代から戦時中のものまで、多様な廃品レコードが回収されて再利用されていた事実が判明したのです。
小さな日用品が語る、教科書には載らない戦時のリアルな暮らし
実は、レコード盤が金属の代用品として使われていたことを証明する現物は、この画びょう以外にほとんど残っていません。文献には電球の部品などに再利用された記録があるものの、実物として現代に形を留めているのは画びょうだけという事実は、歴史的にも極めて大きな価値を持っています。国と国との戦いという大きな歴史の陰で、人々の日常がどのように維持されていたのかを、この小さな遺物が何よりも雄弁に物語っていると私は強く感じます。
戦史の研究はどうしても政治や軍事が中心になりがちですが、本当に目を向けるべきは、配給や物資不足に直面しながらも知恵を絞って生きていた庶民の生活ではないでしょうか。2020年2月14日現在、木村氏の手元にある約1万個の代用画びょうは、決して過去の遺物などではありません。それらは、限られた資源の中で最大限の工夫を凝らした当時の人々の息遣いを、現代の私たちに生々しく伝えてくれる貴重なメッセージカードと言えるでしょう。
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