かつてiPhoneのタッチパネルで一世を風靡したNISSHAが、医療の世界へ劇的な一歩を踏み出します。スマートフォン市場の成熟によって2019年12月期の連結営業損益が43億円の赤字に転落した同社は、自慢の超高精度なプラスチック成形技術を武器に、2020年後半から高齢者でも飲みやすいフィルム薬の開発へ乗り出すことを発表しました。この大胆な業態転換はSNSでも「印刷技術から医療への進化が凄すぎる」「高齢化社会に必須の技術」と、大きな期待を伴って注目が集まっています。
今回NISSHAが買収したゾンネボード製薬の加工技術と、同社の成形技術を組み合わせることで、水なしで口の中で溶ける厚さ1ミリ未満の「フィルム薬」が誕生します。これはいわば、お菓子の薄いシートのように手軽に服用できる未来の薬です。特に注目したいのが、注射が主流だった「バイオ医薬品」をこのフィルムに閉じ込める挑戦でしょう。バイオ医薬品とは、遺伝子組み換えなどの生物学的技術を用いて作られる、極めて効果の高い最先端の薬のことです。
通常、バイオ医薬品は胃で消化されてしまうため注射でしか投与できませんでしたが、口の粘膜から直接吸収させることで、患者の負担を劇的に減らすことが可能になります。既存の薬の形状や投与方法を変えるだけで新しい価値を生み出すこのアプローチは、新薬開発が難航する現代の製薬業界において非常に合理的です。同社は2024年の製品化を目指しており、2018年時点で1兆円だった世界のフィルム製剤市場が2024年には1兆8000億円に急成長するという予測も、彼らの追い風となっています。
2020年12月期も20億円の赤字見通しと苦境が続くなかで、鈴木順也社長はヘルスケア事業の売上比率を2030年12月期までに50%へ引き上げる計画を掲げました。250人の希望退職者募集という痛みを伴う構造改革を断行しつつも、未来への投資を怠らない姿勢は評価されるべきです。1929年の創業以来、高級印刷からスマホ部品へ、そして医療へと変幻自在に形を変えてきた同社のDNAがあれば、この未曾有の危機も必ずや乗り越えられると私は確信しています。
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