マイカーを所有する時代から、必要な時に最適な移動手段を自由に選択する時代へ。世界中で注目を集める次世代移動サービス「MaaS(マース)」の波が、いよいよ日本にも押し寄せています。MaaSとは、スマートフォンのアプリや自動運転技術などを活用し、複数の交通手段を一つのサービスとして統合する画期的な仕組みのことです。今回は、この分野で世界をリードするMaaS先進国、フィンランドの最前線をレポートします。
首都ヘルシンキの近郊にあるエスポー市では、おもちゃのカプシェルのような愛らしいフォルムの小型電動バスが静かに走行しています。こちらはフィンランドのスタートアップ企業「センシブル4」が開発し、2019年に実証実験を開始した自動運転バス「GACHA(ガチャ)」です。運転席はなく、高機能センサーや360度カメラ、高精度GPSを搭載した最先端のシステムが、最適なルートや速度を自動で判断して走行します。
このGACHAの洗練されたデザインを手掛けたのは、なんと日本の良品計画です。シンプルで美しい車体は、雨や雪といった悪天候でも安定して走れる高い技術力を備えています。過疎地や厳しい気象条件下でも、市民の大切な移動手段を確保できる画期的な存在として期待されており、2020年中には本格的な実用化が計画されています。過疎化が進む日本の地方自治体にとっても、まさに救世主となり得るテクノロジーではないでしょうか。
スマホ一つで移動が完結!定額制アプリ「Whim」の衝撃
さらにヘルシンキ市で爆発的な人気を誇るのが、マース・グローバル社が提供するアプリ「Whim(ウィム)」です。すでに市民の6人に1人が利用しているこのアプリは、目的地を入力するだけで、電車やバス、タクシー、シェアサイクルなどの最適なルートと所要時間を一瞬で提示してくれます。さらに、予約から運賃の支払いまでがアプリ一つで完結するため、旅先での煩わしい乗り換えや会計の手間が一切ありません。
Whimの最大の魅力は、動画配信サービスのように交通手段が使い放題になる「定額制プラン」を導入している点です。最高峰のプランでは月額499ユーロ(約6万円)で、対象地域の公共交通や近距離タクシー、レンタカー、シェアサイクルがすべて無制限で利用可能となります。SNS上でも「これなら車を手放せる」「毎月の維持費を考えたら圧倒的にコスパが良い」と絶賛の声が上がっており、人々のライフスタイルを根本から変えつつあります。
フィンランドでこれほど大胆なイノベーションが生まれた背景には、官民の一体となった強力なバックアップが存在します。かつて携帯電話市場を牽引したノキア出身の優秀なIT人材が集結し、大学や行政と連携してスタートアップを次々に創出しました。さらに政府も2018年に交通法を改正し、全事業者にデータ公開を義務付けるなど、新しい移動のインフラ作りに国を挙げて取り組んだことが成功の鍵となっています。
2020年、日本への本格上陸と立ちはだかる高い壁
この巨大なMaaS市場は、2030年までに欧米中を合わせて150兆円規模に達すると試算されています。先行するフィンランド企業は、交通網が発達した日本市場への進出を急速に進めています。マース・グローバル社は三井不動産とタッグを組み、2020年中に千葉県柏市で実証実験を開始するほか、小田急電鉄とも協力して訪日外国人向けのルート手配の仕組み作りを進めています。センシブル4も2020年中の日本拠点設立を目指しています。
しかし、日本での普及には大きな2つの壁が存在します。1つ目は、運賃の変更が厳しく制限されている「規制の壁」です。海外のような柔軟な定額制や、混雑度に応じて価格を変える仕組みの導入は簡単ではありません。さらに、一般のドライバーが自家用車で乗客を運ぶライドシェアは、国内では「白タク」として原則禁止されています。誰もが自由に移動できる未来を実現するためには、時代に合わせたルールの見直しが不可欠です。
2つ目は、鉄道やバス、タクシー会社などの事業者が細分化されている「複雑な交通インフラ」です。現在は会社ごとにアプリが独立しており、これらを一つに統合するには企業間の枠組みを超えた緊密な調整が必要となります。日本の交通インフラは世界最高峰の正確さを誇りますが、その利便性をさらに高めるためには、競合企業同士が手を取り合う広い視野が必要ではないでしょうか。日本のMaaSの未来に、今後も目が離せません。
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