現代のビジネスシーンにおいて、多くの経営者や人事担当者を悩ませているのが深刻な「人手不足」の問題です。2009年のリーマン・ショック直後には0.45倍まで落ち込んだ有効求人倍率ですが、その後は右肩上がりに上昇を続け、2018年には1.61倍という高い水準を記録しました。
街を歩けば、スタッフを確保できずに臨時休業を余儀なくされる飲食店を目にすることも珍しくありません。かつては雇用の流動化が叫ばれていましたが、今や「いかにして優秀な人材を確保し、長く活躍してもらうか」が企業の存亡を分ける最優先事項となっています。
SNS上でも「求人を出しても応募が来ない」「せっかく採用してもすぐに辞めてしまう」といった悲鳴に近い声が溢れています。もはや従来のやり方では通用しない「売り手市場」の真っ只中に私たちは立っているのです。
採用の「常識」をアップデートし、離職を防ぐリテンション戦略へ
人手不足の時代を生き抜くためには、まず採用に関する固定観念を捨て去る必要があります。2019年9月24日に発行された書籍などでも指摘されている通り、採用プロセスにおける「常識」と「専門家の知見」には大きな隔たりが生じているのが現状です。
最近のトレンドとして特筆すべきは、新規採用と同じかそれ以上に「離職抑制(リテンション)」が重視されている点でしょう。リテンションとは、従業員が社外へ流出するのを防ぎ、自社に定着させるための施策を指します。
離職率が下がれば、採用や教育に費やす膨大なコストを削減できるだけでなく、社員の紹介で人材を募る「リファラル採用」の活性化にも繋がります。社内に満足度の高い社員が増えることで、ポジティブな連鎖が生まれ、組織の安定感が増していくのです。
年功序列に頼らない、多様な働き方を認めるマネジメントの重要性
かつての高度経済成長期、1960年代には完全失業率が1%台前半という猛烈な人手不足がありました。当時は年功賃金や退職金といった制度が離職を防ぐ盾となっていましたが、企業の終身雇用が揺らぐ現代では、これら金銭的な仕組みだけでは限界があります。
これからの離職抑制に欠かせないのは、労働者が「ここで働き続けたい」と思える環境作りです。育児や介護など、時間外労働が難しい制約を持つ社員も戦力として積極的に活用しなければなりません。ここで鍵を握るのが、現場を預かる管理職の意識改革です。
「自分の若い頃はこうだった」という古い価値観を押し付けるのではなく、多様な雇用形態や価値観を持つ部下を適切に評価する能力が求められます。無意識の偏見(バイアス)を排除し、誰もが能力を発揮できる「ワークデザイン」を構築する視点が不可欠でしょう。
データが導く「人事を科学する」時代の到来
変化の激しい現代では、過去の経験や勘だけに頼った意思決定はリスクでしかありません。これからは、人事労務の課題に対してもデータを用いた冷静な分析、いわゆる「ピープルアナリティクス」の重要性が増していくと考えられます。
優秀な社員がなぜ定着するのか、中間管理職をどう評価すれば組織が活性化するのか。こうした問いに対して、実務と学術的な視点を融合させた科学的なアプローチをとる企業こそが、人材獲得競争で一歩先を行くことができるはずです。
私自身の見解としても、もはや企業が「選ぶ側」にふんぞり返る時代は終わったと感じます。労働条件の相対的な比較が瞬時に行われる今、他社に遅れをとらない柔軟な思考と、学び続ける姿勢を持つ企業だけが、真のパートナーとしての労働者を得られるのです。
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