インターネット動画の世界で、今まさに歴史的な主役交代が起きようとしています。長らく映像業界を牽引してきた「H.265/HEVC」という規格に代わり、米グーグルなどが主導する次世代ビデオコーデック「AV1」が急速に台頭しているのです。ビデオコーデックとは、膨大なデータの映像を効率よく圧縮し、スムーズに再生するための技術を指します。この分野での覇権を巡り、スマートフォンやテレビ、ウェブブラウザーなど、私たちの身近なデバイスでAV1への対応が劇的なスピードで加速しています。
驚くべきことに、私たちのインターネットライフはすでにAV1の波に飲み込まれています。Google ChromeやFirefoxといった主要なブラウザーは、2019年の時点ですでに対応を完了しており、YouTubeではいち早くこの新規格での視聴が可能になりました。さらに、Windows 10での拡張機能提供や、2019年秋に登場したAndroid 10での正式サポートなど、OSレベルでの環境整備も万全です。SNS上でも「4K動画が驚くほどスムーズに再生される」「通信量の節約に期待」といった驚きと歓迎の声が相次いでいます。
ハードウェアと配信側の熱烈なアプローチ
ソフトウェアだけでなく、物理的なチップや配信システム側の動きも無視できません。台湾リアルテックなどの半導体メーカーがAV1専用のデコーダー(再生用チップ)を開発しており、2020年までにはこの機能を搭載したテレビやセットトップボックスが市場に並ぶと予想されています。また、配信側ではドワンゴが2019年3月に、ニコニコ動画向けにAV1用の超高速エンコーダーを開発したと発表しました。これにより、従来のソフトウェアによる処理に比べて、数十倍から数百倍という驚異的なスピードでの動画変換が実現しています。
こうした動きを後押しするのが、クラウド技術の進化です。ソシオネクスト社は、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)上で動作するリアルタイム符号化機能を発表しており、今後1年以内のサービス開始を目指しています。これは、既存の古い形式の動画をアップロードするだけで、クラウド上の特殊な半導体「FPGA」が瞬時にAV1へと変換してくれる画期的な仕組みです。専門知識がなくとも、高品質で軽量な次世代動画を世界中に届けられる時代が、すぐそこまで来ていることを物語っています。
特許料を巡る攻防とAV1の圧倒的な優位性
しかし、AV1の快進撃を快く思わない勢力も存在します。AV1の最大の武器は「ロイヤルティーフリー(使用料無料)」である点ですが、これに対し「シズベル」などの特許権利者団体が2019年3月に、特許料の支払いを求める動きを見せました。これに対し、AV1を推進する非営利団体「AOM」は、自社の参加者を訴えた団体には特許を使わせないという「防御的終了」という強力なルールで対抗しています。一度AV1が普及してしまえば、もはや誰もこの巨大なエコシステムから離脱することはできないという、巧みな戦略といえるでしょう。
確かにAV1は、計算量が膨大で処理に時間がかかるという課題も抱えています。2019年時点の検証では、H.265に比べて再生処理に2.5倍の負荷がかかるとされていますが、多くの技術者は最適化によってこの問題は解決されると楽観視しています。私個人の意見としても、技術的な負荷よりも「ライセンス料の不透明さ」という壁を壊したAV1の功績は計り知れません。もはやH.265が再び主役に返り咲く隙はないと言っても過言ではなく、AV1こそが次世代の映像体験を支える不動のインフラになるはずです。
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