中東の要衝イラクで、政治の歯車が大きく動き出しました。2019年12月01日、イラク国会はアブドルマハディ首相の辞任を正式に承認しました。10月から続く激しい反政府デモの波が、ついに政権を飲み込んだ形です。しかし、この辞任は安定への第一歩ではなく、さらなる混沌の幕開けとなる可能性を秘めています。
SNS上では、若者を中心に「ようやく一歩前進した」「私たちの声が届いた」という歓喜の声が上がる一方で、治安部隊との衝突で400人以上の犠牲者が出ている現状に対し、「命の代償があまりにも大きすぎる」といった悲痛な叫びも溢れています。ネット上では、犠牲者を追悼するハッシュタグが拡散され、政治の腐敗に対する国民の怒りはピークに達している状況です。
民衆の怒りが突き動かす「反イラン」の奔流
今回のデモの背景には、深刻な失業率や慢性的な電力不足、そして蔓延する汚職への強い不満があります。特に注目すべきは、デモ参加者の矛先が自国政府だけでなく、隣国イランにも向けられている点です。「親イランの政治家が国の富を盗んでいる」という主張のもと、2019年11月27日や12月01日には、シーア派の聖地ナジャフにあるイラン領事館が放火されるという事態まで発展しました。
ここで言う「シーア派」とは、イスラム教の二大宗派の一つであり、イランの国教でもあります。かつて2003年にフセイン独裁政権が崩壊した後、同じシーア派が多数を占めるイラクに対し、イランは多大な経済支援や軍事訓練を通じて影響力を強めてきました。しかし、今のイラク国民にとって、その密接すぎる関係は、自国の独立と豊かさを損なう要因として映っているようです。
米イ主導権争いと「イスラム国」の不気味な足音
後任の首相選びには、サレハ大統領による舵取りが期待されますが、前途は多難でしょう。イラクを舞台に、影響力保持を狙うイランと、それを阻止したい米国の激しい「綱引き」が予想されるためです。米国は約5000人の兵士を駐留させ、情報収集を強化しながら、イランの核開発や地域での覇権拡大を警戒しています。この両国の思惑が交錯する中で、親米・親イランのどちらに寄る人物が選ばれるのかが焦点となります。
私は、この「政治空白」こそが最も危険なリスクであると考えます。かつて猛威を振るった過激派組織「イスラム国」(IS)は、2019年10月に指導者を失いながらも、報復の機会を虎視眈々と狙っています。現に11月26日にはバグダッドで爆弾テロが発生しました。政治が混迷し、軍の最高司令官不在の状況が続けば、過激思想が再び社会の隙間に入り込む余地を与えてしまうでしょう。
イラクの安定は、中東全体の、ひいては世界のエネルギー情勢や安全保障に直結します。2018年の総選挙時も政権発足に半年を要した過去を鑑みると、今回も長期化は避けられないかもしれません。しかし、国民が求めているのは権力争いではなく、安心して暮らせる明日の生活です。国際社会は、この混乱が最悪の事態を招かないよう、イラクの自立を注視していく必要があります。
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