緑のダム vs コンクリートのダム!異常気象から命を守る「総合的治山治水」の真実と流域治水への転換

近年、毎年のように日本列島を襲う深刻な水害に、私たちはどのように立ち向かうべきなのでしょうか。2017年07月05日の九州北部豪雨、2018年06月28日からの西日本豪雨、そして2019年10月12日に上陸した台風19号など、日本は想像を超える激甚な災害に直面しています。これほど大規模な洪水が相次ぐと、かつての「異常気象」が今や日常の脅威になりつつあると感じざるを得ません。そうした背景から、日経コンストラクションが編纂した書籍が今、多くの関心を集めています。

この書籍は、日本の河川工学と森林科学の権威である東京大学名誉教授の虫明功臣氏と太田猛彦氏の両名が監修を務めています。かつて政治の世界では「コンクリートから人へ」というスローガンが叫ばれ、地方自治体でも「脱ダム」を宣言する動きが活発だった時期がありました。人工的な構造物を造るのではなく、大自然の力を活かして災害を防ごうという主張です。その中で、ダムに代わる理想的な対案として大きな注目を浴びたのが「緑のダム」という存在でした。

ここで言う「緑のダム」とは、森林が持つ「水源かん養機能(すいげんかんようきのう)」、つまり雨水を土壌に蓄えて洪水を緩和し、川の流量を安定させる仕組みを指しています。緑豊かな山々が天然のスポンジとなり、街を洪水から守ってくれるという極めて魅力的なアイデアです。SNS上でも「自然の力を見直すべきだ」「森林をもっと整備すればコンクリートの巨大建造物は要らないのではないか」といった、エコでクリーンな対策を支持する声が当時から多く上がっていました。

しかし、同書はこうした自然の力に対する過度な期待に対し、冷徹な科学的限界を突きつけています。通常の雨であれば森林の土壌は水をしっかりと受け止められますが、近年の記録的な豪雨の前にはその許容量を簡単に超えてしまうのです。限界を迎えた山肌は土壌そのものが崩壊し、大量の土砂や倒木が濁流となって一気に河川へと押し寄せます。近年の水害は、単なる増水だけでなく土砂崩れが同時に起きる「複合災害」へと姿を変えているのが実態です。

それでは、やはり人工的なダムに頼るしかないのでしょうか。本書はコンクリート製の建造物が持つ確かな効用を認めつつも、同時にそれ単体での限界についても率直に言及しています。ダムの能力を極限まで発揮させるには、ハードウェアをただ造るだけでは足りません。利水に関わる農業関係者や自治体などと平時から綿密な連携を取り、台風などが接近する前に貯水位を下げる「事前放流」などの高度な運用管理が不可欠になるからです。

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二項対立を超えた未来の防災戦略

これまでの日本の治水議論は、「コンクリートのダムか、それとも緑の森林か」という不毛な二項対立に終始しがちでした。しかし、私はどちらか一方だけを正解とする極端な思考こそが、現代の防災を遅らせる最大の原因であると考えます。大雨の初期段階を森林が受け止め、それを超える大洪水をダムが食い止めるというように、それぞれの弱点を補い合う視点が必要です。森林政策の歴史や世界の水利の歩みを学ぶことで、より広い視野が見えてくるでしょう。

これからの時代に求められるのは、川の上流から下流にいたる「流域全体」を総合的に管理するアプローチに他なりません。山を育てる治山と、川を制御する治水が手を取り合うことで、初めて私たちの暮らしに真の安全がもたらされます。SNSでも「どちらか一方ではなく、両方の組み合わせが絶対に必要だ」という冷静な意見が広がり始めています。自然への畏敬の念を持ちながら最新の技術も駆使する、そんな柔軟で賢い総合戦略へ今こそ舵を切るべきです。

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