人類進化のロマンを今に伝える人類化石。その知名度を決定づけるのは、単なる学術的な価値だけではありません。化石が持つドラマや、人々の好奇心を刺激するミステリー、そしてどのように人々に語り継がれたかという「物語」が深く関わっているのです。本書『7つの人類化石の物語』は、ネアンデルタール人を象徴する「ラ・シャペルの老人」や、驚くべき捏造事件として知られる「ピルトダウン人」など、世界的に有名な七つの人類化石が、いかにして大衆の間に浸透していったかという過程を追った、画期的な科学ノンフィクションでございます。
これらの著名な人類化石の歴史を紐解くと、共通する一つの特徴が浮かび上がってきます。それは、化石がまるで人間であるかのように扱われる擬人化です。その代表例が、アウストラロピテクス・アファレンシスという学名を持つ「ルーシー」でしょう。この化石の名前は、発掘隊が発見時に聴いていたビートルズの楽曲に由来しています。あたかも「彼女」がそこにいて、私たちに語りかけているかのように扱われたことで、発見地のエチオピアでは英雄として迎えられました。
「ルーシー」は、その後、新聞記事や多くの書籍、さらには大規模な展覧会を通じて、その存在を世界中に知らしめることになります。化石は、ただの骨の断片ではなく、高さや幅といった客観的な情報以上の威光と文化的価値を帯びるようになり、古人類学という専門的な分野を一般の人々にわかりやすく伝えるメディアとしての役割を担ってきたと言えるでしょう。
歴史研究家である著者は、化石が消失した際に、かえってその消失の物語が価値を持つという、興味深い見解を提示しています。たとえば、かつて重要な発見として注目された北京原人の化石群は、戦争の混乱のなかでその所在が分からなくなってしまいました。しかし、この行方不明のドラマこそが、化石群にさらなる伝説的な価値を与え、人々の記憶に刻みつける結果となったのです。
もちろん、古人類学の状況は現在も刻々と変化しています。一時は失われたとされていた北京原人の化石の一部(歯)は、2011年にスウェーデンで再発見されるというニュースがありました。このような身近なニュースや、それに対する私たち自身の反応、そして交わされる会話の一つ一つもまた、化石の物語を形作る重要な要素となっていることに気づかせてくれるのです。
(白揚社より2019年6月1日に刊行された本書は、藤原多伽夫氏が翻訳を担当し、2,700円で発売されています。)
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