いま、ビジネスやテクノロジーの世界で「数理資本主義」という新しい言葉が大きな注目を集めています。これは、高度な数学的・論理的な思考力こそがイノベーションを生み出し、これからの経済を成長させる原動力になるという考え方です。最先端のデジタル社会を生き抜くための必須スキルとして、世界中で熱い視線が注がれています。
SNS上でもこのワードは拡散されており、「文系だからと数学を諦めていたけれど、もう一度学び直したい」「これからは計算ができるだけでなく、物事を論理的に組み立てる力が必須になる」といった、危機感と期待が入り交じった多くの反響が寄せられている状況です。単なるブームにとどまらない、社会の地殻変動が始まっています。
経済産業省は2019年3月に「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える」と題した報告書をまとめました。その中では「数学を制する者は、第4次産業革命を制す」という、非常に力強い言葉が掲げられています。第4次産業革命とは、AIやIoT(モノのインターネット)などの技術によって、産業構造がガラリと変わる変革のことです。
なぜ、これほどまでに数学が重要視されているのでしょうか。その理由は、現在のトレンドである人工知能(AI)の基礎が、まさに数学そのものだからです。さらに、次世代の超高速計算機である量子コンピューターや、新素材の開発、遺伝子情報をもとにした最先端の創薬など、人間の常識を超える未知の領域では、抽象的な思考が欠かせません。
ここで気になるのが、よく耳にする「AI人材」と、いま求められている「数理人材」の違いでしょう。政府の「AI戦略2019」をまとめた内閣府の佐藤文一審議官は、現代のデジタル社会における「読み・書き・そろばん」に当たるのが、数理・データサイエンス・AIであると指摘し、子供の頃から数理的なセンスを育てる重要性を説いています。
既存のAIツールをただ使いこなすだけの人材では、これからの激しい競争を勝ち抜くことは難しいでしょう。数学者である武蔵野大学の坪井俊特任教授は、抽象的な数学の手法を使って自ら課題を解決し、失敗や成功を実体験することが何よりも大切だと語ります。自分で挑戦した経験がなければ、真に創造的な成果は生まれないのです。
こうした状況を踏まえると、単にプログラミングができるだけでは不十分で、その裏側にある「なぜその結果になるのか」を論理的に導き出す数理の力が、今後のビジネスの成否を分けると私は確信しています。つまり、表面的な技術の習得ではなく、物事の本質を見抜く深い数学的素養こそが、これからのビジネスパーソンに不可欠な武器になるはずです。
未来の天才を育てる!驚きの教育・研修最前線
こうした時代を背景に、数理の素養を広く授け、同時に専門能力を深く育てるユニークな試みがすでに始まっています。東京大学発のベンチャー企業であるNABLAS(ナブラス)では、企業の経営層向けのAI講座を開講する一方で、開発前線で活躍する専門人材の育成にも力を注いでおり、その画期的なカリキュラムが話題です。
同社の中山浩太郎代表取締役は、AI人材が不足している根本的な原因は「教える側の教師がいないこと」だと分析しています。そこで受講者が互いに課題解決を競い合い、同時に教え合って共に成長する「コンペティション(競争)方式」のプログラムを提供し、教育現場の課題を打破する斬新なシステムを作り上げました。
また、大学教育の現場でも驚くべき改革が進んでいます。立教大学は、2020年春から大学院に「人工知能科学研究科」を新設することを決定しました。実は同大学には工学部がありません。しかし、AI技術は今や理系だけの専門知識ではなく、あらゆる分野で活用できるツールへと進化しているのが現状です。
立教大学の内山泰伸教授は、人文科学や社会科学といった幅広い領域において、AIを応用した高度な研究ができる人材の育成を目指すと意気込みを語っています。講師陣には、国内最高峰の研究所である理化学研究所などから、第一線で活躍するスター研究者たちをスカウトし、文理の枠を超えた最先端の学びの場を構築しています。
数学は、歴史を振り返っても様々な学問と出会うことで発展してきました。理化学研究所の小谷元子理事は、数学が守備範囲をさらに広げることで、科学技術の分野にとどまらず、社会や経済の仕組みそのものを変革するイノベーションに貢献できると大きな期待を寄せており、これからの社会実装が本当に楽しみでなりません。
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