米国のグーグルをはじめとする巨大IT企業の台頭により、私たちの生活は劇的に便利になりました。その一方で、市場を独占するプレイヤーへの風当たりは世界中で強まっています。こうした時代の変化に伴い、企業の公正な取引を守るための「独占禁止法」の適用範囲が、かつてないほどに広がっているのをご存じでしょうか。インターネット上でも「GAFA規制はどこまで進むのか」「中小企業や消費者は守られるのか」といった、将来を不安視する声や期待が渦巻いています。
競争当局の動向を見守り続けている東京大学の白石忠志教授は、この法制度の現状について非常に興味深い視点を示しています。先生の解説によると、独占禁止法というものはあらゆる商品やサービスに平等に適用できる、極めて柔軟な性質を持った法律なのだそうです。だからこそ、今までは法律の光が十分に届いていなかった最先端のデジタル領域に対しても、柔軟に切り込んでいくことができる可能性を秘めているのでしょう。
二重基準の危険性と企業に広がる困惑の渦
しかし、適用範囲が広がる一方で、新たな課題も浮き彫りになってきました。公正取引委員会は、立場の強い企業が弱い立場にある取引先を不当にいじめる「優越的地位の乱用」というルールの適用を、個人情報の取り扱い分野にまで拡大しようとしています。ここで白石教授が警鐘を鳴らすのが、伝統的な大型小売業に対する基準と、新しい個人情報のガイドラインに記された基準との間で、お互いの整合性が本当に取れているのかという視点です。
目先の案件ごとに異なるルールが適用されるような「二重基準」が存在すれば、ビジネスの現場は混乱に陥ってしまうでしょう。SNSでは「新しい分野のルールが不透明だと、企業が新しい挑戦をためらって萎縮してしまうのではないか」という懸念の声が数多く上がっています。本来であれば行政機関の判断が間違っていると感じた場合、企業は裁判所で正々堂々と争うことができます。公取委の言葉だけで事実上のルールが作られないための仕組みが不可欠です。
行政の暴走を防ぎ、社会全体で判断のバランスを保つためのチェック体制を構築することは、健全な市場経済を守るために極めて重要であると私は考えます。法解釈の主導権が行政機関だけに握られてしまえば、企業の自由なイノベーションを阻害しかねません。だからこそ、司法の場がしっかりと機能し、監視の目が光る社会を目指す必要があるはずです。
確約手続きの透明性と国際社会での日本の立ち位置
実際に、新しい法運用の試みはすでに始まっています。2019年10月には、公取委の調査を受けた企業が自ら改善計画を提出して問題を解決する「確約手続き」という制度が、日本で初めて適用されました。これは楽天トラベルの事案で導入されたものですが、現時点で公表されている資料は、どのような約束が交わされたのかが非常に簡潔に書かれているに過ぎません。これでは、社会が内容の是非を判断するのは不可能です。
同業他社への調査が完了した段階で、より詳細な情報が広く開示されるべきでしょう。情報が透明化されて初めて、私たち社会全体がその内容をチェックし、議論を深めることができるようになるからです。インターネット上でも、この初めての試みに対して「不透明な合意で終わらせるのではなく、何がダメだったのかを明確にしてほしい」という、プロセスのクリーンさを求める意見が目立っています。
さらに、巨大IT企業への規制を巡っては、国際的な哲学の違いも影響しています。米国には「合法的に勝った勝者が利益を得るのは当然であり、国が規制すべきではない」という強い資本主義の思想が存在します。一方で欧州連合は、極端なケースでは規制のメスを入れるべきだという立場を取ってきました。近年は世界的にこの欧州の手法が影響力を強めており、日本もその潮流を色濃く受けている状況です。
現在の日本政府の動きを見ていると、欧州と同じように「優越的地位の乱用」を適用して、弱い立場にある取引相手を保護しようとする傾向が一段と強まっています。国際的な法規制のトレンドを敏感に察知し、自国の経済活動にどう調和させていくかが、これからの日本の未来を大きく左右する重要な鍵となるはずです。
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