人工知能(AI)や高度なネットワークが社会のインフラとなった現代において、論理的かつ数学的な思考力を備えた人材の需要はかつてないほど高まっています。2020年01月30日、長年にわたり数学人材の育成に尽力してきた東北大学材料科学高等研究所の西浦廉政特任教授が、これからの社会に必要な教育と取り組みについて熱く語ってくださいました。
かつて2006年に文部科学省の科学技術政策研究所が公表した報告書「忘れられた科学〜数学」は、日本の数学教育への強い危機感を示し大きな話題を呼びました。それから10年以上が経過した現在、西浦教授は科学技術振興機構(JST)の支援のもとで「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」というプロジェクトを牽引し、イノベーションの創出に挑み続けています。
この取り組みにおいて、西浦教授が最も重要視しているのが「現場主義」という姿勢にほかなりません。研究開発の現場が抱えるリアルな課題を正確に把握し、産業界や他分野の研究者と手を取り合うことが、新たな価値を生み出す原動力になります。SNS上でも「机上の空論にとどまらない数学の活用は、これからの産業に絶対必要だ」と、この姿勢を支持する声が多数寄せられていました。
ただし、数学者が単に現場の要望をこなすだけの「便利屋」になっては意味がありません。提示された課題の本質を理解した上で、それを数学の世界における普遍的な枠組み、すなわち「どのようなケースにも応用できる共通のルールや理論」へと昇華させることが求められます。現場のリアルな問題を数学の言葉に翻訳するためには、実際に足を運び、多様な人と出会う経験が不可欠でしょう。
頼もしいことに、このプロジェクトを通じて育った若い世代は、今や立派な中堅研究者として活躍しています。彼らは指示を待つだけの消極的な姿勢を捨て、自らの研究が社会のどこで役立つかを探るため、積極的に企業の門をたたくようになりました。こうした行動の積み重ねによって、産業界が数学者に対して抱くイメージも確実に変化しているようです。
これからの時代、高度な数学的アプローチで社会課題を解決する「数理人材」の存在は、国力をも左右する極めて重要な要素になると断言できます。AIが導き出した答えをブラックボックス化させず、その根拠を論理的に説明するためには、数学の力が絶対に欠かせません。西浦教授が実践する現場主義のアプローチは、日本の科学技術を救う特効薬になるはずです。
若い世代に現場感覚を!数学と社会をつなぐ架け橋のプラットフォーム構想
こうした意識改革を日本全体に広げるためには、大学の学部や修士課程の段階から、現場の空気に触れる機会を設けることが最優先課題となります。私たちが生きる社会が50年後や100年後にどう変化していくのか、何が真の重要課題なのかを早い時期に考える機会を得られれば、その後の学生たちの学びの姿勢や吸収力は劇的に変わるに違いありません。
また、未来を担う子どもたちへのアプローチとして、中学生や高校生を対象とした講演会「数学キャラバン」も継続して開催されています。第一線で活躍する若手数学者たちが自身の情熱的な仕事を直接語りかけるこのイベントは、数学が大好きな子どもたちの知的好奇心を刺激し、その情熱を絶やさないための素晴らしい起爆剤として機能している模様です。
さらに西浦教授は、数学と社会の強固な架け橋となる「プラットフォーム」の創設を強く提唱しています。これは企業の多様な相談にスムーズに対応できる窓口機能を持つもので、最適な数学者を引き合わせる「数学問題のコンシェルジュ」や「総合医」のような専門家を配置する構想です。ドイツのフラウンホーファー研究機構のような先進的なモデルが理想とされています。
このプラットフォームが実現すれば、世界中から超一流の研究者が集う研究集会が頻繁に開催され、応用数学を含めた幅広い議論が交わされる聖地となるはずです。大学という既存の垣根を軽々と飛び越え、日本の数学界がこれから果たすべき社会的役割をオープンに語り合える場所の誕生が、今まさに待ち望まれています。
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