映画史に刻まれる歴史的な瞬間が、ついに訪れました。米ウォルト・ディズニー傘下のマーベル・スタジオが放った超大作「アベンジャーズ/エンドゲーム」が、約9年半もの間、絶対王者として君臨していた「アバター」の記録を更新し、世界興行収入で歴代首位に躍り出たのです。2019年04月に公開されてから快進撃を続け、2019年07月21日までに積み上げた興収は、なんと27億9020万ドル(約3000億円)を突破しました。
アイアンマンやキャプテン・アメリカといった、マーベル・コミックが誇る伝説的ヒーローたちが集結する本作の完結編は、まさに世界中のファンが待ち望んだ「祭り」でした。SNS上では「これまでの10年間の集大成に涙が止まらない」「映画館で歴史が動く瞬間を目撃した」といった熱狂的な投稿が溢れかえっています。興行収入とは映画館のチケット販売額の合計を指しますが、この莫大な数字は単なる人気以上の要因が重なり合って生まれました。
驚異的な記録を後押しした「中国市場」と「再上映戦略」の裏側
今回の首位交代の背景には、いくつかの大きな要因が潜んでいます。まずは「興行収入」の仕組みに関わる物価の影響です。米国映画協会によれば、米国内の平均チケット価格は2009年の7.5ドルから、経済インフレの影響を受けて2018年には9.11ドルまで上昇しました。つまり、単価の向上が記録更新の一助となった側面は否定できません。しかし、それ以上に無視できないのが、この10年で市場規模が約9倍にまで膨れ上がった中国の存在でしょう。
中国のチケット販売規模は今や90億ドルに達し、「エンドゲーム」にとっても米国に次ぐ巨大な収益源となりました。さらに、ディズニーが仕掛けた巧みなリピート戦略も功を奏しました。もともと3時間を超える長尺作品ですが、2019年06月下旬には未公開映像を加えた特別版を再投入したのです。「最後にもう一度、彼らに会いたい」というファンの心理を突いたこの施策が、最後の最後で記録を押し上げる決定打となりました。
配信サービスの台頭が突きつける、映画館の新たな存在意義
映画界にとって喜ばしいニュースの一方で、業界を取り巻く環境は激変しています。その最大の要因は、ネットフリックスに代表される動画配信サービスの隆盛です。ネットを通じて映画やドラマを視聴するこのサービスへの支出額は、2018年には前年比29%増の426億ドルを記録しました。これは、同年の世界興行収入である411億ドルを初めて上回るという、非常にインパクトの強い出来事として業界を震撼させています。
注目すべきは、配信サービスが単なる「過去作の視聴場所」ではなく、アカデミー賞を狙うような高品質なオリジナル作品の「発信地」になっている点です。2019年のアカデミー賞で監督賞を射止めた「ROMA/ローマ」はネットフリックス作品ですし、同社の「バード・ボックス」は社会現象を巻き起こすほどの影響力を持ちました。映画の主戦場がリビングのテレビや手元のスマートフォンへと移行しつつあることは、もはや抗えない時代の流れと言えるでしょう。
ディズニー自身もこの変化に対応すべく、2019年11月には独自の配信サービス「ディズニー+」を米国で開始し、本作も目玉コンテンツとして投入する構えです。ボブ・アイガーCEOが語るように、劇場公開と配信の相乗効果を狙う戦略は、映画館に足を運ばない層を取り込むための生命線となります。映画とは、暗闇の中で大画面を共有する体験なのか、それともコンテンツそのものなのか。私たちは今、エンターテインメントの定義が再構築される過渡期に立ち会っているのです。
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