2011年3月11日に発生した東日本大震災。あの未曾有の災害をきっかけに、岩手県遠野市へボランティアとして駆けつけた一人の男性がいました。吉田慶さんは現地での活動を通じて「復興の力になりたい」という決意を固め、当初はNPO法人の職員として支援の道を選びます。しかし、活動を続ける中で、補助金や助成金に依存するモデルの限界という、支援活動が抱えるシビアな現実に直面することになりました。
支援の灯を絶やさないためには、自立した「ビジネス」としての確立が不可欠であると吉田さんは確信したのです。そこで彼が目をつけたのが、東北が誇る豊かな「食」のポテンシャルでした。かつて食のイベントを手掛けた際に培った生産者との確かなネットワークを武器に、彼は未経験ながらも飲食業界への挑戦を決意します。多額の借金を背負いながら、東京・赤坂の地に「東北バル トレジオン」を誕生させたのは、情熱が成せる業でしょう。
SNS上では、このトレジオンの取り組みに対して「美味しい料理を食べることが支援に繋がるのが嬉しい」「東北の地酒や食材のレベルの高さに驚いた」といったポジティブな声が数多く寄せられています。単なる同情心ではなく、純粋に「食」としてのクオリティが評価されている点は特筆すべきでしょう。これこそが、一時的なブームで終わらせないための、持続可能な支援のあり方を示しているのではないでしょうか。
吉田さんが何より大切にしているのは、「支援したい」という義務感以上に「東北の魅力を伝えたい」という純粋なワクワク感です。お店のコンセプトである「バル」とは、スペイン語で食堂やバーを指す言葉であり、地域の人々が気軽に集う社交場を意味します。東北の食材をふんだんに使った料理や、現地の熱量をダイレクトに伝えるイベント企画によって、赤坂のビジネスマンたちの心を掴み、着実にファンを増やしていきました。
拡大する東北の輪!2019年9月にはついに盛岡へ凱旋出店
現在、赤坂では1号店に加え「東北酒場 トレジオンポート」と「東北バル トレジオンプチ」の計3店舗を運営するまでに成長を遂げています。さらに、流行の発信地である渋谷にも東北食材をメインとしたカフェを展開するなど、その勢いは止まることを知りません。そして2019年9月には、満を持して岩手県盛岡市への新規出店が予定されており、東京から東北へ、さらには東北現地へと支援のサイクルが循環しようとしています。
こうした吉田さんの歩みを見て私が感じるのは、真の地域貢献には「稼ぐ覚悟」が必要不可欠であるということです。ボランティアやNPOという枠組みを超え、市場で勝負する飲食店という形を選んだからこそ、震災から8年が経過した2019年8月19日現在も、色褪せることなく支援を継続できているのでしょう。お客様は「可哀想だから」ではなく「魅力的だから」足を運ぶのです。この視点の転換こそが、地方創生の鍵を握っています。
「地域を助けたい」という尊い想いに、プロフェッショナルな「商売」の視点を掛け合わせる。言葉で言うのは容易いですが、それを実現するには並大抵ではない熱量と行動力が求められます。吉田さんの挑戦は、同じように地域支援を志す多くの人々にとって、勇気を与える道標となるに違いありません。赤坂や渋谷で東北の息吹を感じながら、美味しいお酒を嗜むひとときは、私たち消費者にとっても最高の贅沢と言えるはずです。
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