中国を旅していると、私たちは漢字という共通の文化を持っているがゆえに、言葉が通じなくても筆談でなんとかなるだろうという甘い期待を抱きがちです。「国家」や「明日」といった日中で共通の意味を持つ言葉も多いですが、実際には同じ漢字の並びでも意味が全く異なるケースが珍しくありません。漢字学者の阿辻哲次氏が紹介するエピソードは、こうした文化のギャップを非常にユーモラスに描き出しています。
2019年09月08日の報告によれば、中国の街角で頻繁に目にする「正宗川菜」という四文字が、日本人旅行者の間で大きな誤解を招いているそうです。あるツアー客は、この看板を見て「有名な銘酒である『正宗』の生一本と、鯉や鮒などの川魚を振る舞う店」だと推測しました。確かに日本的な感覚であれば、風情ある川魚料理店を想像してしまいますが、中国の地においてはその解釈は大きく外れていると言わざるを得ません。
SNS上でもこの話題は関心を集めており、「漢字がわかるからこそ陥る罠がある」「中国で正宗の文字を見たら背筋を伸ばすべき」といった声が上がっています。多くの日本人が漢字の共通性に頼りすぎる中で、現地の文脈を正しく理解することの難しさが浮き彫りになりました。このように、視覚的な情報が似ているからといって安易に判断するのは、異文化交流における一つの危うさを含んでいるのではないでしょうか。
看板が語る「正真正銘の四川料理」という衝撃
それでは、この「正宗川菜」の真意を解説しましょう。まず「正宗(せいそう)」という言葉ですが、これは日本語の日本酒ブランドとは無関係で、中国語では「正真正銘の」や「本場の、由緒正しい」という意味を持っています。続く「川菜(せんさい)」は、中国の「四川省(四川)」の「料理(菜)」を指す専門用語です。つまり、この看板は「本場仕込みのガチンコ四川料理店」であることを宣言しているのです。
私自身の意見を述べさせていただければ、この「正宗」という言葉を掲げる店側の覚悟には、敬意を払うと同時に相当な警戒が必要です。単に「辛い」というレベルではなく、舌が痺れる「麻(マー)」と燃えるような「辣(ラー)」が容赦なく襲ってくることを意味しているからです。観光客向けに手加減された味ではなく、現地の人が日常的に愛する、暴力的なまでの刺激がそこには待ち受けていることでしょう。
激辛好きを自称する方であっても、2019年09月08日現在の中国で見かける「正宗川菜」の門を叩く際は、万全の体調と気合で挑むことを推奨いたします。安易な気持ちで足を踏み入れれば、その容赦ない本場の洗礼に驚愕するのは間違いありません。漢字の読み解き一つで、優雅な川魚料理を期待したはずが、汗と涙が止まらない灼熱の食卓へと変貌してしまう。これこそが、比較文化の面白さであり、旅の醍醐味と言えるかもしれませんね。
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