「自分には自己破産という選択肢しか残されていないのではないか」。そう肩を落として語るのは、神奈川県に住む38歳の会社員、武内亮さん(仮名)です。彼は数年前に約3500万円の住宅ローンを組みましたが、現在はその返済計画が根底から崩れ去り、出口の見えない苦境に立たされています。かつては夢のマイホームだった場所が、今や彼を追い詰める重荷へと姿を変えてしまいました。
武内さんが融資を受けた額は年収の7倍に相当し、しかも頭金はゼロという、いわゆる「フルローン」の状態でした。当初は共働きである妻の収入を合算して返済する予定でしたが、予期せぬ離婚によって家計の柱が一本失われてしまったのです。慌てて売却を検討したものの、不動産会社から提示された見積額はローンの残りかすにも届きません。家を売っても借金が残る「オーバーローン」という現実が、彼の行く手を阻んでいます。
SNS上では、こうした状況に対して「人生の不測の事態を想定していない計画は恐ろしい」といった警鐘を鳴らす声が相次いでいます。歴史的な低金利政策が続き、不動産価格が上昇し続ける中で、私たちの金銭感覚は麻痺し始めているのかもしれません。かつてマイホーム購入の目安は「年収の5倍」と言われていましたが、株式会社東京カンテイの調査によれば、2019年時点での新築マンション価格は年収の7.8倍にまで跳ね上がっています。
特に東京都内に限定すると、その数字は驚愕の13.3倍にまで達しており、もはや一般的な会社員の年収では太刀打ちできない水準です。しかし、驚くべきことに高所得層の間ではさらなる借り入れへの意欲が衰えていません。銀行の窓口では「1億円の融資では希望の物件に手が届かない」という声が日常的に聞かれるようになり、超高額なローンを希望する都心の共働き世帯や自営業者が急増している状況です。
拡大する融資枠とシニア世代を待ち受ける「老後破綻」の影
こうした空前の需要に応えるべく、金融機関も従来の融資基準を次々と見直しています。これまで1億円程度に設定されていた融資の上限額を、2億円にまで引き上げる銀行も現れ始めました。しかし、借入額が膨らむほど、返済期間中に起こるライフイベントのリスクは増大します。これは働き盛りの世代だけでなく、これからセカンドライフを迎えようとするシニア世代にとっても決して他人事ではありません。
大阪市の会社員、遠野崇さん(仮名、64歳)は、退職を目前に控えて約2000万円のローンを抱えています。銀行からの勧めで住み替えを決断したものの、再就職後の年収はかつての800万円から400万円へと半減してしまいました。高齢者の再就職で収入が下がるのは一般的ですが、いざ現実に直面すると「見通しが甘かった」と、今後の返済に強い不安を抱かずにはいられないのが実情です。
人生100年時代と言われる現代、銀行側は退職金や高齢者の労働収入をターゲットに、シニア向け融資の拡大を加速させています。その結果、2018年12月末時点での国内の住宅ローン残高は約200兆円に達し、8年連続で過去最高を更新しました。家計が抱えるリスクはもはや無視できないレベルに達しており、まさに薄氷の上を歩くような状況が続いていると言えるでしょう。
ここで懸念されるのが「変動金利」のリスクです。現在、契約者の約6割が選んでいる変動型は、将来的に市場金利が上昇すれば、毎月の返済額が増加する仕組みになっています。専門家である東京カンテイの井出武上席主任研究員は、金利の上昇だけでなく、将来的に不動産市況が悪化した際に物件の資産価値そのものが目減りしてしまうリスクについても、厳しく注意を促しています。
一方で、多くの家庭が繰り上げ返済を急がない背景には、住宅ローン控除という税制上のメリットが存在します。ローンの年末残高の1%分を最長10年間減税できるこの制度がある限り、手元に現金を残しておく方が合理的だと考える人が多いのです。しかし、低金利や税制の追い風がいつまでも吹く保証はありません。風向きが変わった瞬間、膨れ上がった借金は牙を剥き、多くの家庭の幸せを飲み込んでしまう懸念があります。
編集部としては、不動産価格の上昇局面だからこそ、現在の自分の年収だけでなく、30年後のキャリアや健康リスクを見据えた冷静な判断が必要だと感じます。華やかなモデルルームや「家賃を払うよりお得」という言葉の裏には、個人の力では制御できない巨大な市場リスクが隠されています。今は順風満帆に見える住宅市場ですが、その代償を支払う日が来ないことを祈るばかりです。次の一歩を踏み出す前に、今一度ご自身の返済計画を厳しく見直してみてはいかがでしょうか。
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