微笑みの国・タイでのビジネスや生活に、突如として冷ややかな逆風が吹き始めました。タイ入国管理局は、これまで40年近く形骸化していた移民法第38条、通称「TM30」の運用を2019年に入り急激に厳格化させています。この規定は、タイに滞在する外国人を宿泊させる家主に対し、本人が到着してから24時間以内に当局へ居住報告を行うことを義務付けるものです。
かつてはホテル側が対応するだけの形式的なルールに過ぎませんでしたが、現在は一般のコンドミニアムやアパートのオーナーにも同様の対応が求められるようになりました。さらに厄介なことに、外国人が国内旅行で他県へ宿泊し、再び自宅に戻った際にも再報告が必要という解釈が示されています。この煩雑なプロセスにより、タイに根を下ろして働くビジネスマンやその家族が、図らずも法令違反となるリスクに晒されているのです。
そもそも「TM30」とは、1979年に制定された古い法律に基づいています。IT化が進んだ現代において、物理的な書類提出や不安定なオンライン申請を強いるこの制度は、あまりに時代錯誤だと言わざるを得ません。SNS上でも「これでは優秀な人材がタイを敬遠してしまう」「24時間以内という縛りは現実的ではない」といった困惑の声が溢れており、ハッシュタグ「#TM30」を伴う批判的な投稿が相次いでいます。
テロ対策か、それとも経済の足かせか。現場から噴出する不満と今後の展望
タイ当局は今回の厳格化について、テロリストや不法就労者の潜伏を防ぐ「国家安全保障」の観点から不可欠であると主張しています。確かに治安維持は重要ですが、正規の就労ビザを持ち、多額の投資を行っている企業関係者までもが、旅行のたびに報告漏れを怯える現状は、ビジネス環境としての魅力を著しく損なうでしょう。特に2019年9月25日現在、ビザ更新時にこの報告がないことで罰金を科されるケースが急増しています。
編集者の視点から申し上げれば、現在のタイ政府の対応は「デジタル・タイランド」を標榜する国家戦略と矛盾しているように感じます。セキュリティを担保しつつ利便性を高めるならば、スマートな顔認証システムや、より円滑な一元管理アプリの導入こそが優先されるべきではないでしょうか。形骸化していた旧法を力ずくで復活させる手法は、グローバル社会におけるタイの立ち位置を危うくする恐れを孕んでいます。
現状、タイに滞在する皆様にできる最善の策は、家主とのコミュニケーションを密にし、常に最新の居住報告が受理されているか確認することです。幸いなことに、経済団体からの強い要請を受けて、当局も一部ルールの緩和やシステムの改善を検討し始めているとの兆しもあります。混乱が収束し、再び誰もが安心してビジネスに専念できる「真のDX化」が進むことを切に願ってやみません。
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