世界的な環境規制の波が、ついに巨大な海運業界を飲み込もうとしています。RORO船(貨物を積んだトラックなどが自走して乗り降りできる船)の分野で世界最大手を誇る、ノルウェーのワレニウス・ウィルヘルムセン社。その舵取りを担うクレイグ・ヤシエンスキCEOは、2019年10月16日のインタビューにおいて、これからの海運業が生き残るための過激とも言える戦略を打ち出しました。
ヤシエンスキ氏は、国際海事機関(IMO)による2020年からの規制強化を待つまでもなく、先んじて対策を講じるべきだと強く主張しています。「環境対策に後ろ向きな金融機関からは資金を調達しない」という彼の言葉からは、業界の常識を根底から覆そうとする強い意志が感じられます。SNS上でもこの発言は「環境版の選別が始まった」と大きな話題を呼び、投資家たちの注目を集めています。
金融をも動かす「ポセイドン原則」の衝撃
彼が特に重要視しているのが、2019年6月に欧米の大手銀行が採択した「ポセイドン原則」です。これは、船を造る際などの融資において、その船が排出する二酸化炭素(CO2)の想定量を情報開示することを求める画期的な枠組みです。ヤシエンスキ氏はこの動きを「ゼロエミッション(排出ゼロ)への素晴らしい一歩」として手放しで歓迎しており、金融の力で業界の浄化を加速させようとしています。
こうした動きの背景には、環境意識が極めて高い北欧諸国の政府方針や、荷主となる企業側の変化があります。実際、コンテナ船世界最大手のマースクもこの理念に賛同しており、北欧の海運巨頭たちが足並みを揃えて「環境対応」をグローバルスタンダードへと押し上げようとしています。海運は輸送量当たりの排出量で見ればトラックの約6分の1と効率的ですが、世界全体の排出量の2%を占めるという事実は無視できません。
日本のメガバンクへも波及する「環境の見える化」
ヤシエンスキ氏は、アジアの金融機関に対しても「ぜひ参加してほしい」と熱い期待を寄せています。すでに日本の銀行にも働きかけを行っており、「非常に強い関心を持ってもらえた」と手応えを感じているようです。欧州ではもはや、環境対策はコストではなく「企業の競争力」そのもの。自動車産業が単体の燃費からサプライチェーン(供給網)全体の排出量を見るようになったのと同様、海運もその真価を問われています。
2020年からは個別の船舶ごとの排出量公表も始まる予定であり、対応が遅れた船は荷主から選ばれなくなる「失注リスク」も現実味を帯びてきました。ワレニウス社はITを駆使し、消費者までもが環境対応を確認できる「見える化」の仕組みを構築しようとしています。これは単なる一企業の努力ではなく、業界の垣根を越えたネットワークとして広がるべきだと、彼は力説しています。
編集者の視点から言えば、この動きは日本企業にとって「義務」ではなく「最大のチャンス」と捉え直すべきでしょう。スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんの活動に象徴されるように、欧州の環境熱はもはや後戻りできない段階にあります。手間やコストを惜しむのではなく、いち早く「選ばれるパートナー」としての地位を確立することこそが、2020年代の海運経営における王道となるはずです。
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