総合商社である丸紅が、デジタル時代における産業構造の大きな変化、すなわち地殻変動を生き抜くために、事業モデルの抜本的な見直しと社員の意識改革に本腰を入れています。2019年4月に社長へ就任された柿木真澄氏は、将来的に収益を生み出す事業を新たに創出するため、今後3年間で2000億円という巨額の投資を断行すると明言しました。この大胆な「挑戦」を後押しするため、社員が就業時間の15%を新規事業の創出に充てても良いとする独自の制度も整備しており、その本気度がうかがえます。
柿木社長は、今回の将来への投資を決定した背景には、「現在の商社のビジネスモデルの大部分が、やがて機能しなくなり、別のものに置き換わる」という強い危機感と確信があると述べています。歴史の延長線上でこれまで続けてきた事業が、この先も存続するとは考えていないというのです。例えば、自動車や建設機械の代理販売といった従来のビジネスも、そのままの形で残るとは限らないとの見解を示されました。シェアリングエコノミーの拡大など、顧客の考え方や価値観が大きく変化している現代において、商社が価値を持ち続けるには、常に世の中の半歩先を進み、未知の領域であっても経験を積み重ね、将来的に求められるものを示していく必要があると強調されています。
具体的にどのような分野に投資するのかについては、社員の自由な発想を妨げないよう、あえて特定の領域を定めていないとのことです。しかし、傾向としてはサービス関連が多くなるであろうと見込んでいます。サービス分野は、個人を対象としたビジネスが多いため、消費者に近い事業を探求していくことになるだろうと展望されています。また、商社はこれまで裏方的な役割(黒子)を担うという印象が強かったものの、丸紅が主導権を握り、自社ブランドとして事業展開を行う可能性も十分に考えられるという柔軟な姿勢を示されています。極端な例として、今や他業界でも電気自動車(EV)を製造すると言われているのだから、「丸紅でつくれないわけがない」と、社内の現場に対しても積極的に議論を促しているそうです。実際に、現場では具体的な検討が始まっているとのことでした。
社員の挑戦を促す人事制度と意識改革
丸紅が昨年から導入した「15%ルール」をはじめとする新規事業創出のための制度は、既に効果を発揮し始めています。昨年度は、この制度を利用して就業時間の15%を新規事業に費やした多くの社員が、社内事業案コンテストに応募し、中には実際に事業化へ向けて取り組む案件も複数出てきているということです。この制度の真の狙いは、単に新規事業を生み出すことだけでなく、裏を返せば、既存事業については残りの85%の時間で100%の成果を出すことが求められるため、社員の生産性向上にもつながっていると分析されています。
また、人事面での評価についても大きな変革を打ち出しています。従来の利益額だけにとらわれず、挑戦という行為そのものを定性的に評価していく方針です。例えば、10億円の利益を上げたとしても、新しい取り組みの芽を潰してしまうような行為があれば、その評価は必ずしも高くないという考えです。その10億円は、これまでの流れの中で自然に稼げた可能性があり、一方で挑戦をしなかったことで、将来の100億円という大きな収益機会を失ったかもしれないからです。柿木社長は、利益追求の陰で失われるかもしれない将来の可能性に目を向け、社員の挑戦意欲を尊重する姿勢を明確に示されています。
丸紅は現在、経営危機に直面しているわけではありません。それにも関わらず、このような大規模な改革を断行できるのかという問いに対して、柿木社長は「会社が一枚岩になるしかない」と力強く答えています。経営企画部の人員が各支店を巡回し、現場レベルまで中期経営計画の意義や内容を徹底的に浸透させているとのことです。会社全体で、一人も後ろ向きな姿勢(斜に構える人)を取る人がいないよう、意識改革を徹底していく方針です。
「とがった丸」への変革スピードが未来を左右する
丸紅は「とがった丸になれ」を合言葉に、昨年度から変革に挑み続けてきました。今回、新たな中期経営計画で大型の予算を投じることで、その本気度が改めて問われています。単に技術を持つ企業へ投資するだけでなく、社員一人ひとりに挑戦を促し、社員の意識改革を最優先に進めるのが、まさに丸紅流の変革アプローチだと言えるでしょう。2019年3月期には過去最高益を達成しており、丸紅はまさに好業績という事業の空白地帯を探検する絶好の機会を捉えたと言えます。
しかし、挑戦には常にリスクが伴うものです。経営層が抱く危機感を、現場の社員がどこまで深く共有し、自らの行動へと変えていけるかが非常に重要になります。また、経営資源を新たな分野へと分散させることになるため、好業績を維持しているうちに、新規事業の芽をしっかりと育て、収益化へとつなげられるか、つまり変革へのスピード感が、未来を左右するカギとなるでしょう。私見ではありますが、現状に満足せず、デジタル時代に対応するための大胆な自己変革をトップが率先して進める姿勢は、他の日本企業にとっても大いに参考になるのではないでしょうか。
この丸紅の動きに対し、SNS上でも「商社がついに本気を出してきた」「2000億円投資は規模がすごい」といった驚きの声や、「既存事業にしがみつかず、新しい挑戦を評価する姿勢は素晴らしい」といったポジティブな意見が多く見受けられました。特に、社員の挑戦を評価する人事制度は「理想的な企業文化」として注目を集めており、丸紅の今後の動向に対する期待の高さがうかがえます。
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