日本のSF文学界を黎明期から支え続け、数々の名作を世に送り出した作家の眉村卓(本名・村上卓児)さんが、2019年11月3日午前4時1分、誤嚥(ごえん)性肺炎のため大阪市内の病院で息を引き取りました。85歳という生涯を駆け抜けた巨星の訃報に、文学界のみならず多くのファンが深い悲しみに包まれています。葬儀および告別式は2019年11月9日午後0時30分から、大阪市阿倍野区にある「やすらぎ天空館」にて、長女の知子さんを喪主として執り行われる予定です。
大阪市に生まれた眉村さんは、れんがメーカーに勤務しながら創作活動をスタートさせました。1961年に「下級アイデアマン」がSF小説コンテストに入選したことを機に頭角を現し、1965年からは専業作家として活動を開始します。専門用語である「SF(サイエンス・フィクション)」とは、科学的な空想に基づいた物語を指しますが、眉村さんは単なる空想に留まらず、厳しい管理社会や人間の心理を鋭く描く「インサイダー文学」という独自の境地を切り開き、ジャンルの発展に大きく貢献しました。
SNS上では「子供の頃に夢中で読んだ」「放課後の図書室を思い出す」といった声が相次いでいます。特に『なぞの転校生』や『ねらわれた学園』といったジュニアSF作品は、何度も映画やドラマとして実写化されており、世代を超えて愛される不朽の名作となりました。日常の中に潜む非日常を鮮やかに描き出すその筆致は、多くの若者たちの想像力を刺激し、未知なる世界への扉を開いてくれたに違いありません。大人になって読み返しても、そのメッセージ性は決して色褪せることがありません。
また、眉村さんの代表作といえば、泉鏡花文学賞を受賞した壮大なSF『消滅の光輪』が挙げられます。しかし、晩年の活動で人々の心を最も打ったのは、妻・悦子さんへの深い愛情から生まれた作品群でしょう。がんで余命宣告を受けた愛する妻を元気づけるため、眉村さんは毎日1話ずつ「ショートショート(原稿用紙数枚程度の極めて短い小説)」を書き続けました。2004年に刊行された『妻に捧げた1778話』は、実話に基づく愛の物語としてベストセラーを記録し、映画化もされています。
一人の表現者として、そして一人の夫として、書くことで絶望に立ち向かおうとしたその姿勢には、言葉にできないほどの気高さが宿っています。SFという枠組みを超え、人間の普遍的な感情を紡ぎ続けた眉村さんの作品は、これからも私たちの心の中に生き続けるでしょう。私自身も、眉村さんが描いた「日常のすぐ隣にある不思議」を読み解くたびに、現実を見つめ直す勇気をもらってきました。数えきれないほどの物語を届けてくださった眉村さんに、心からの敬意と哀悼の意を表します。
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