アメリカの労働市場が、予想を遥かに上回る力強さを見せつけています。2019年11月1日に米労働省が発表した10月の雇用統計(速報値)によれば、景気の先行指標となる非農業部門の就業者数は前月から12万8000人も増加しました。当初、市場では約9万人程度の増分にとどまると予測されていただけに、この結果は世界中の投資家や経済専門家にポジティブな衝撃を与えています。
今回の調査期間中には、自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)において大規模なストライキが発生していました。この「ストライキ」とは、労働条件の改善を求めて労働者が一斉に業務を放棄することを指し、統計上は約4万2000人もの雇用減要因となったはずです。それにもかかわらず、これほど高い数字を叩き出したという事実は、アメリカ経済が内包する基礎体力の凄まじさを物語っていると言えるでしょう。
SNS上でも「GMのマイナスを埋めて余りあるほど他の業種が強いのは驚きだ」「トランプ政権の関税政策が懸念される中でも、これだけ雇用が増えるのはアメリカ経済がまだ死んでいない証拠」といった驚きの声が相次いでいます。失業率についても、前月からわずか0.1ポイント上昇した3.6%となりました。これは約50年ぶりという歴史的な低水準を維持しており、まさに「完全雇用」に近い状態が続いているのです。
賃上げ継続とサービス業の活況が支える好循環
働く人々の財布事情を映し出す平均時給は28.18ドルとなり、2018年10月と比較して3.0%の上昇を記録しました。これで賃金の伸び率は15カ月連続で3%台をキープしたことになります。雇用が安定しているからこそ、企業は優秀な人材を確保するために給与を上げざるを得ません。この「賃金上昇」が消費者の意欲を刺激し、さらなる景気拡大を招くという理想的な好循環が見て取れます。
特に注目すべきは、年末のビッグイベントであるクリスマス商戦を見据えた動きです。小売業では前月比6000人増、運輸・倉庫業でも1万人増と、サービス部門での採用が加速しています。これは、ネットショッピングの普及や物流網の拡充が雇用を強力に支えている証左です。2019年後半に入ってからの3カ月平均の伸びは17万6000人と、前半の停滞感を完全に払拭する勢いを見せています。
FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長は、2019年10月30日の会合で3回連続となる利下げを決定したばかりですが、同時に「当面は追加緩和を見送る」という姿勢も示唆しました。今回の強気な雇用データは、パウエル議長が主張する「労働市場の堅調さ」を裏付ける最高の材料となります。これにより、金融市場では今後の利下げが一旦ストップするとの見方が一段と強まりました。
政治の思惑と貿易摩擦が影を落とす不透明な先行き
しかし、この経済の絶好調を素直に喜べない人物がいます。それがドナルド・トランプ大統領です。大統領は自身のSNSなどで「ドル高と高い金利が製造業を苦しめている」と持論を展開し、利下げ停止へと舵を切ろうとするFRBを猛烈に批判しています。2020年の大統領選を控え、自身の支持基盤である中西部の製造業の雇用を守るために、さらなる金融緩和を強要し続ける構えです。
編集者としての私見を述べれば、現在の雇用環境は非常に健全ですが、米中貿易摩擦という「火種」が消えていない点には注意が必要です。企業心理が冷え込めば、いくら現状が良くても採用活動には急ブレーキがかかりかねません。トランプ氏によるFRBへの政治的圧力は、中央銀行の中立性を揺るがす懸念材料であり、今後の米中協議の進展こそが、この好景気が「本物」であり続けるかどうかの試金石となるはずです。
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