世界最大の牛乳消費国であり、牛を神聖な動物として崇める国、インド。そんな酪農大国がいま、最新テクノロジーによって劇的な変化を遂げようとしています。2019年11月29日、現地の酪農家たちが直面してきた「生産性の低さ」という長年の課題に対し、画期的な解決策が登場しました。
その主役は、なんと牛が装着するウェアラブル端末です。インドでは農業とITを融合させた「アグリテック」と呼ばれるスタートアップ企業が急増しており、2019年には前年比25%増の450社に到達しました。投資額も前年比300%増と、世界中から熱い視線が注がれています。
牛版スマートウォッチ「ムーオン」が救う農家の家計
この分野で注目を集めるのが、ベンガルールに拠点を置く「ステラップス・テクノロジーズ」です。彼らが開発した「ムーオン」は、牛の脚に装着して歩数や心拍数を測定する、いわば牛専用のスマートウォッチです。SNSでは「牛までウェアラブルの時代か!」「最先端すぎて驚く」といった驚きと期待の声が広がっています。
なぜこれが必要なのでしょうか。実はインドの乳牛は、欧米の牛に比べて年間の搾乳量が10分の1程度と極端に少ないのです。その最大の原因は、わずか数時間しかない「発情期」の見逃しにありました。夜間に発情が起きると農家が気づけず、繁殖のタイミングを逃して乳が出ない期間が長引いてしまうのです。
ムーオンはこの微細な変化を24時間監視し、最適なタイミングで獣医へ通知を送ります。専門用語でいう「IoT(モノのインターネット)」、つまりあらゆる機器をネットに繋ぐ技術を駆使することで、これまで人間の目では限界があった健康管理を自動化したわけです。これにより、農家の利益はなんと5倍にまで跳ね上がったといいます。
1日600万リットルを監視する巨大な供給網
ステラップスの野望は、単なるデバイスの開発にとどまりません。彼らは生乳の成分測定や保冷庫の温度管理まで、牛乳が消費者に届くまでの「サプライチェーン(供給網)」全体をデジタル化しようとしています。現在、インド国内の約2万カ所で1日約600万リットルの牛乳をモニタリングしているというから驚きです。
私個人の意見としては、この取り組みは単なるビジネスを超えた「社会救済」であると感じます。月収約3万円で生計を立てる小規模農家にとって、牛1頭につき月額1ドルという低価格で生産性を38%も向上させられるこの技術は、まさに生活を変える魔法のような存在でしょう。
ビル・ゲイツ氏の財団からも巨額の出資を受ける同社は、今後さらに規模を拡大し、3年後には1日3000万リットルをチェックする体制を目指しています。2019年というこの年は、古くからの伝統を持つインドの酪農が、デジタルの力で近代化へと突き進む歴史的な転換点として記憶されることになるでしょう。
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