日本の伝統文化を象徴する日本酒が、今まさに大きな岐路に立たされています。2019年11月14日現在、かつてないほど冷え込んだ日韓関係の波が、地方の基幹産業である食品業界を直撃しているのです。これまで二桁成長を維持し、右肩上がりで拡大を続けてきた日本酒の輸出事業ですが、主要な輸出先であった韓国向けの取引が急ブレーキをかけるという、異例の事態に陥っています。
特に深刻な影響を受けているのが、日本有数の酒どころとして知られる新潟県です。県内の酒蔵からは「受注が完全に止まってしまった」「販売量が半減した」といった、悲痛ともいえる現場の生の声が次々と上がっています。中越地域の酒造会社で海外戦略を担当する方は、2019年7月にコンテナを発送して以来、一度も新規注文が入っていないという厳しい現状を明かしてくれました。
ネット上のSNSでも、この状況を危惧する声が広がっています。「お酒に罪はないのに残念だ」といった文化交流の断絶を惜しむ声や、「これを機に新しい市場を開拓してほしい」というエールなど、日本酒ファンからの反響は小さくありません。現地の輸入代理店から「1年間は情勢を静観したい」と告げられた蔵元もあり、事態の長期化を懸念するムードが漂っているのが2019年11月現在のリアルな空気感です。
過去10年で急成長を遂げた「韓国市場」という柱の揺らぎ
ここで、これまでの韓国市場の勢いを振り返ってみましょう。日本酒の対韓輸出は、直近の10年間でなんと約3.5倍という驚異的な伸びを見せていました。2018年のデータでは前年比11.5%増の5350キロリットルを記録し、アメリカに次ぐ世界第2位の巨大市場へと成長を遂げていたのです。韓国の都市部では日本式の居酒屋がトレンドとなり、若者世代を中心に日本酒を嗜む文化が定着しつつありました。
しかし、その勢いは2019年8月を境に一転します。輸出量は前年同月比で56%も減少するという、成長路線から真逆の事態に見舞われました。ここでいう「輸出量」とは、国内から海外へ向けて発送される貨物の量のことで、経済指標として市場の勢いを測る重要な指標です。特に新潟県は、日本酒の出荷量に占める輸出の割合が6.3%に達しており、そのうち約35%を韓国向けが占めていたため、打撃は計り知れません。
こうした苦境に対し、白滝酒造をはじめとする県内の蔵元は、決して手をこまねいているわけではありません。「韓国での落ち込みを、米国などの他国で補いたい」と語るように、特定の国に依存しすぎない「販路の多角化」へと舵を切り始めています。販路とは商品を売るためのルートを指しますが、今回のような地政学的なリスクを分散させるためにも、世界各地に顧客を持つ戦略の重要性が再認識されているのでしょう。
私は、今回の危機こそが日本酒の「真のグローバル化」を促す転換点になると考えています。特定の市場に頼るビジネスモデルは効率的ですが、今回のように政治情勢の影響を受けやすい脆さも孕んでいます。新潟の酒蔵が持つ高い技術力とこだわりは、間違いなく世界に通用する価値を持っています。今この困難を乗り越え、世界中の人々を魅了する新しいストーリーを紡ぎ出す姿に、心からの期待を寄せずにはいられません。
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