中国のネット通販の絶対王者、アリババ集団が2019年11月26日に香港証券取引所へ上場する見通しとなりました。2019年8月には香港での抗議デモの影響で延期を余儀なくされましたが、盤石な業績を背景に、ついに歴史的な重複上場へと舵を切ります。時価総額50兆円を超え、トヨタ自動車の2倍という巨躯を持つ同社が、なぜ今このタイミングで香港を選んだのか。そこには創業者ジャック・マー氏の執念と、冷徹な生存戦略が隠されています。
SNS上では「ついにアリババがアジアに帰ってくる」「米中対立の中で賢いリスク分散だ」と、投資家たちの期待に満ちた声が溢れています。かつてアリババは香港上場を熱望していましたが、当時の香港市場では経営陣が取締役を指名できる「パートナー制」が認められず、2014年に断念した過去があります。しかし、香港側が「種類株(議決権が通常より強い特殊な株式)」を解禁したことで、長年の障害が取り除かれ、悲願の凱旋が実現したのです。
「独身の日」の熱狂と、米国依存からの脱却
2019年11月12日、浙江省杭州のアリババ本社。ダニエル・チャンCEOの表情は自信に満ちていました。11月11日の「独身の日」セールでは、取扱高が2684億元(約4兆1000億円)という驚異的な数字を記録し、前年を25%も上回ったからです。2019年7月から9月期の営業利益も前年比1.5倍に達しており、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いです。この好調な数字を武器に、アリババは香港市場での評価を確実なものにしようとしています。
今回の香港上場には、中国本土の個人投資家からの資金を呼び込むという大きな狙いもあります。「ストックコネクト(香港と本土の株式を相互に売買できる制度)」を通じて、中国の人々が自分たちの生活に欠かせないアリババの株を直接買えるようになるのです。米国の投資家だけに頼るのではなく、足元のファンを株主に変えることで、資本の基盤をより強固なものにするという、極めて合理的な判断だと言えるでしょう。
ソフトバンクグループの安堵とハイテク覇権への布石
筆頭株主であるソフトバンクグループ(SBG)にとっても、今回の動きは大きな「保険」となります。SBGの保有資産のうち、アリババ株は13兆円超という圧倒的な比重を占めています。トランプ政権による中国企業への投資制限が噂されるなど、米中対立の激化はアリババにとって常に暴落のリスクを孕んでいます。市場をニューヨークと香港に分散させることは、まさに地政学的な荒波から資産を守る防波堤を築くことに他なりません。
調達される最大1兆4600億円もの巨資金は、AIや量子コンピューター、半導体といった先端技術の研究機関「達摩院(DAMOアカデミー)」への投資や、積極的なM&Aに投じられる予定です。単なるECサイトの枠を超え、デジタル化された巨大経済圏のインフラを目指すアリババの野望は、とどまる所を知りません。デモの影響に揺れる香港にとっても、アリババの誘致は国際金融センターとしての意地を見せる絶好の機会となったはずです。
私個人の視点では、今回の決断は単なる資金調達ではなく、アリババが「中国のナショナルチャンピオン」として世界と対峙するための覚悟の現れだと感じます。米国という舞台で成功を収めた上で、ルールを変えさせてまで故郷の香港に戻る姿は、まさに盤上の王者の指し手。政治と経済が複雑に絡み合う現代において、これほどダイナミックで戦略的な上場劇は滅多に拝めるものではありません。
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