2019年10月の消費増税に伴いスタートした「キャッシュレス・ポイント還元事業」が、私たちのライフスタイルを劇的に変えようとしています。日本経済新聞が2019年11月下旬に実施した約1万人規模のアンケート調査では、驚くべき結果が明らかになりました。なんと回答者の約4割が、この還元制度をきっかけにキャッシュレス決済を「新たに始めた」あるいは「利用頻度が増えた」と回答しているのです。
特に注目すべきは、スマートフォン決済への関心の高さでしょう。新たにキャッシュレスの世界に飛び込んだ人のうち、77%もの人がQRコード決済を選択しています。SNS上でも「財布を出さなくていい解放感がすごい」「還元の恩恵が目に見えてわかる」といったポジティブな声が溢れており、これまでの現金至上主義から、デジタルな支払い体験へと消費者の意識がシフトしている様子が鮮明に浮かび上がっています。
主役はコンビニ!1000円未満の「少額決済」がトレンドに
今回の調査で見えてきたもう一つの真実は、キャッシュレス決済が「日常の小さな買い物」に浸透しているという点です。主な利用場所として45%の人がコンビニ、40%の人がスーパーを挙げており、1回あたりの利用金額も1000円未満が44%と最多を占めました。これまでは「数百円でカードを出すのは気が引ける」と感じていた層が、還元制度という後押しを得て、少額でも堂々とアプリをかざすようになっています。
コンビニ各社のデータも、この勢いを裏付けています。セブン—イレブン・ジャパンでは、2019年10月時点のキャッシュレス比率が約42%に達し、増税前と比較して約7ポイントも上昇しました。ローソンやファミリーマートでも同様の傾向が見られ、フランチャイズ加盟店における2%の即時充当(支払額からの差し引き)という「目に見えるお得感」が、消費者の心を強く掴んでいるといえるでしょう。
ここで専門用語を解説すると、コンビニなどが実施している「即時充当」とは、後日ポイントが付与されるのを待つのではなく、会計時にその場で還元分を値引きする仕組みのことです。このシンプルさが、利便性を求める現代人のニーズに合致したのでしょう。大手スーパーのライフコーポレーションでも、独自のキャンペーンを武器にキャッシュレス比率を伸ばしており、決済事業者による顧客の囲い込み競争は激化の一途をたどっています。
「中小企業支援」という本来の目的に漂う暗雲
しかし、この盛り上がりの裏側で、政府が掲げた「中小小売店への支援」という目的とのズレが深刻化しています。本来、この政策は大手資本ではない地域の商店を守るためのものでしたが、ふたを開けてみれば利用者の足はコンビニや大手チェーンに向いています。中小店舗が多い飲食店での利用はわずか11%にとどまっており、還元の恩恵が一部の大手企業に偏っている事実は否定できません。
現場からも切実な声が届いています。例えば、複数の決済手段を導入した飲食店「そば助」では、一定の利用はあるものの、高齢層がQRコード決済の操作に戸惑う場面も多いといいます。誰もが使いやすい「ユニバーサルデザイン」としての決済環境が整っていないことが、中小店舗での普及を妨げる壁になっているのかもしれません。2020年6月末までの期間限定となるこの事業が、本当の意味で地域経済を潤すのか、私たちは注視する必要があります。
編集者としての私見ですが、今回のブームは「お得さ」というガソリンで動いているに過ぎない懸念があります。制度が終了した後も消費者がキャッシュレスを使い続けるためには、ポイント還元という「アメ」がなくなった後でも、「現金よりも圧倒的に便利で安全である」という本質的な価値を店舗側と決済事業者が提供し続けられるかどうかにかかっているのではないでしょうか。
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