職場で静かに、しかし確実に心を削り取る「モラルハラスメント」の被害が深刻な社会問題となっています。厚生労働省の最新の調査によれば、労働相談件数はこの10年間で2.6倍という驚異的な伸びを記録しました。2019年に入り、フィギュアスケートの織田信成氏がモラハラを理由に関西大学アイススケート部の監督を辞職し、提訴に踏み切ったニュースは記憶に新しく、世間の関心を一気に加速させることになったでしょう。
SNS上では「自分も同じような目に遭っている」「目に見えない攻撃だから周囲に理解されず辛い」といった悲痛な叫びが溢れています。これまで「教育の一環」や「厳しい指導」という言葉で片付けられてきた行為が、実は個人の尊厳を深く傷つける不当な攻撃であると、多くの人々が気づき始めている証拠と言えます。言葉の刃や執拗な無視が、どれほど働く人の人生を狂わせてしまうのか、私たちは今こそ真剣に向き合うべき時期に来ているのです。
巧妙化する攻撃の実態と被害者の苦悩
2018年4月に新卒で不動産会社へ入社した24歳の男性が受けた仕打ちも、あまりに過酷なものでした。営業ノルマ未達成を理由に上司から「うっとうしい」と罵られ、懇親会ではあからさまな無視を決め込まれるなど、精神的な孤立を強要されたのです。このモラルハラスメント(通称:モラハラ)とは、倫理や道徳を意味する「モラル」を盾にした嫌がらせを指し、言葉や態度で相手の心を支配し、精神的に追い詰める卑劣な行為を意味しています。
結局、この男性は心身に深い傷を負い、わずか1年あまりで職場を去る決断を下しました。驚くべきことに、同期入社の社員も全員が退職に追い込まれたという事実は、組織の異常性を如実に物語っています。専門家は、モラハラを「コミュニケーションの拒絶」や「執拗な仕事への批判」によって相手の雇用機会や心身の健康を奪うものと定義しており、まさに職場の平穏を根底から破壊する深刻な人権侵害であると警鐘を鳴らしています。
法規制の壁と今後の展望
2018年度における「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は約8万2千件に達し、過去最高を更新し続けているのが現状です。かつて芸能界の離婚訴訟をきっかけに流行語となった「モラハラ」という概念は広く浸透しましたが、法律面での整備は未だ不十分と言わざるを得ません。2019年5月に成立したパワハラ防止法も、あくまで上下関係を背景とした攻撃が対象であり、同僚間や複雑な人間関係から生じるモラハラは、現在の法制度では救済の枠から漏れてしまう恐れがあります。
日本の法律では、セクハラやマタハラのように「類型化」されたものに限定して対策が進む傾向にあります。しかし専門家は、細かな定義に縛られることで、かえって守られるべき労働者の範囲が狭まっていると指摘しています。私は、特定の型に当てはまらない精神的攻撃も包括的に禁止する「ハラスメント禁止法」のような、より踏み込んだ法規制が不可欠だと確信しています。誰もが安心して自分らしく働ける環境を作るために、社会全体のルールをアップデートする時です。
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