横浜の海を取り戻せ!失われた140キロの海岸線と「砂浜再生」に託す未来の景色

幕末の古文書に記された横浜の海辺は、今では想像もつかないほど豊かな表情に満ちていました。当時の記録である「江戸湾の歴史」を紐解くと、現在の本牧周辺には切り立った崖がそびえ立ち、磯子区のあたりには穏やかな遠浅の海が広がっていたことが分かります。そこはナマコがよく獲れる漁場であり、塩を作るための塩田も点在していました。きっと当時の子供たちは、波打ち際で無邪気な声を上げて磯遊びを楽しんでいたのでしょう。

それから150年以上の時が流れ、2019年12月05日現在も横浜が港町であることに変わりはありません。しかし、かつてと決定的に異なるのは「人と海との距離感」です。高度経済成長期を経て埋め立てが進んだ結果、沿岸部には巨大な港湾施設や工場が整然と立ち並びました。その代償として、一般の市民が自由に海へ足を踏み入れられる場所は、残念ながらほとんど失われてしまったのが実情といえます。

現在の横浜で海を楽しもうと思っても、多くの場所では高い柵越しに波を眺めることしかできません。こうした現状に警鐘を鳴らすのが、横浜市を拠点に活動するNPO法人「ともに浜をつくる会」です。彼らが作成した「海岸線アクセスマップ」によれば、明治時代には約140キロメートルもあった海岸線のうち、実際に人が水に触れられるのは、現在わずか1.4キロメートルほどに過ぎないという衝撃的な事実が判明しました。

この数字は、お台場や葛西などの人工ビーチが整備されている東京都の事例と比較しても、いささか物足りなさを感じざるを得ません。同会の理事長を務める89歳の石田猛さんは、かつてこの海で生計を立てていた元漁師です。2005年に会を設立したきっかけは、小学生のお孫さんから投げかけられた「どうして海がなくなったの?」という純粋な問いかけだったといいます。

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IR誘致と山下ふ頭の再開発に懸ける「市民の海」への期待

「浜辺で遊び、泳ぐ体験を通じて海を知ることで、初めて自然を慈しむ心が育まれる」という石田さんの信念は、多くの現代人の共感を呼んでいます。2019年に日本財団が約1万1千人を対象に実施した調査でも、7割を超える人々が「海に行きたい」と回答しました。さらにその中の9割が、子供時代の海での体験を極めて重要だと捉えています。海は単なる風景ではなく、私たちの感性を育む大切な場所なのです。

現在、横浜市がカジノを含む統合型リゾート、いわゆるIRの誘致候補地としている「山下ふ頭」に大きな注目が集まっています。市はここをウォーターフロント、つまり「水辺の最前線」を活かした魅力的な空間にする方針を掲げています。もしこの再開発エリアに美しい砂浜が蘇れば、観光客だけでなく地域住民にとっても、真に心から楽しめる憩いの場となるのではないでしょうか。

SNS上でも「横浜に砂浜があったら最高」「みなとみらい周辺で水に触れたい」といった声が多く聞かれます。将来を見据えれば、古くなった臨海部の工業地帯を再開発する機会は今後も増えていくでしょう。その際、無機質なコンクリートの護岸を再び柔らかな砂浜へと戻す選択肢があっても良いはずです。豊穣な海をどのように市民の手に取り戻すのか。この冬、冷たい海風を感じながら考えてみたい課題です。

編集者の視点から申し上げれば、横浜の魅力は洗練された都市景観と「野生の海」が共存してこそ完成すると考えます。コンクリートで固められた便利さだけでなく、足裏に感じる砂の感触や潮の香りを日常に取り戻すことは、都市の価値をさらに高めるはずです。山下ふ頭の再開発が、単なる経済拠点ではなく、次世代へ海を繋ぐ大きな一歩となることを切に願ってやみません。

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