自動車業界の屋台骨を支える巨大企業、住友電気工業が今、劇的なビジネスモデルの転換期を迎えています。同社は世界シェアトップを誇るワイヤハーネス、つまり自動車の血管や神経に例えられる「組み電線」で知られる名門です。しかし、2019年11月21日現在の情勢を見ると、その盤石な牙城に変化の兆しが表れています。
先日閉幕した「東京モーターショー2019」において、同社のブースは業界関係者に大きな衝撃を与えました。驚くべきことに、主力製品であるはずのワイヤハーネスの展示を一切行わなかったのです。代わりに掲げられたのは、モビリティやエネルギー、そして高度な通信技術を融合させた、未来の社会インフラを描き出す野心的なコンセプトでした。
SNS上では、この大胆な戦略変更に対して「老舗の住友電工がここまで振り切るとは」「次世代への危機感と本気度が伝わってくる」といった驚きの声が相次いでいます。自動車の電動化が進む中で、同社の主力事業は一見追い風に見えますが、実際には製品単価の下落という厳しい現実に直面しており、既存ビジネスの限界を予感させているのでしょう。
5G基地局を支える窒化ガリウムの衝撃
住友電工が新たな成長の柱として据えているのが、次世代通信規格「5G」に関連する高度な電子部品です。特に注目を集めているのが「窒化ガリウム(GaN)」を用いたデバイスでしょう。これは青色LEDの材料としても知られる化合物半導体で、従来のシリコンに比べて熱に強く、高電圧でも効率よく動作するという優れた特性を持っています。
この窒化ガリウムを用いたアンテナ向け部品は、5G基地局の設置が進む中で需要が爆発的に伸びています。これまで電線で培ってきた素材技術を、最先端の通信インフラへと応用する同社の底力には目を見張るものがあります。単なる「部品メーカー」から、次世代通信を支える「インフラの主役」へと脱皮を図る意志が明確に感じられます。
CASE時代を見据えた総合交通システムの未来
さらに同社が描く未来図は、単なる通信部品の供給に留まりません。自動車業界のメガトレンドである「CASE(ケース)」、すなわち接続、自動運転、シェアリング、電動化がもたらす新しい社会への参入を見据えています。例えば、信号機に設置した高精度レーダーが歩行者を検知し、車と通信して事故を防ぐ交通管制システムの構築です。
井上治社長は、交通・通信・電力の各分野を統合し、全く新しい事業を創出する決意を語っています。これは、従来の「モノ売り」から、社会課題を解決する「システム提供」へのシフトを意味するのでしょう。2020年3月期には研究開発費を1330億円まで増額する計画であり、過去5年で約3割も投資を拡大させている点に期待が高まります。
編集者としての私見ですが、この構造改革は日本の製造業が進むべき一つの正解ではないでしょうか。既存の成功体験を捨ててでも、5GやCASEという未知の領域へ巨額投資を行う姿勢は、非常に勇敢だと評価できます。市場からは収益化への懸念も囁かれていますが、この挑戦こそが、10年後の同社の価値を決定づける分岐点になると確信しています。
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