旅行業界の雄であるエイチ・アイ・エス(HIS)が、単なる「人の移動」を超えた驚きの新事業に乗り出しました。2019年12月11日、同社は日本の生産者が誇る製品や農産物を海外へ売り込む、輸出支援サービスの開始を発表したのです。この挑戦の記念すべき第1弾として選ばれたのは、三重県産の香り高い「伊勢茶」と瑞々しい「みかん」です。目的地はなんと、日本との縁が深い一方で製品の普及がこれから期待される中央アジアのアゼルバイジャンとなっています。
HISがこの事業を推進できる最大の強みは、世界69カ国に広がる圧倒的な海外拠点網にあります。旅行業のために築いた現地の支店やネットワークをフル活用し、販路の開拓から加工のサポートまでを一気通貫で手助けする仕組みです。SNSでは「HISが商社のような動きをするのは面白い」「地方の農産物が世界に広がるチャンス」と、既存の枠にとらわれないビジネスモデルの変化に大きな注目が集まっています。旅を売るプロが、今度は日本の「モノ」を世界へ届け始めました。
三重の逸品がアゼルバイジャンで「抹茶チョコ」に!
2019年10月に三重県と食の海外展開に関する連携協定を結んだHISは、早くも具体的なアクションを起こしています。特産品の伊勢茶は、単なる飲料用の茶葉として輸出されるだけではありません。現地の大手菓子メーカー「シリン社」とタッグを組み、なんと抹茶チョコレートへの加工が実現しました。ここで言う「加工」とは、原材料に手を加えて新しい価値を持つ商品を作ることを指しますが、現地の嗜好に合わせた味わいに調整することで、より広く親しまれる工夫が施されています。
この抹茶チョコは、アゼルバイジャン国内のスーパーで販売されるだけでなく、将来的にはロシアや欧州、中東といった広大な市場への展開も視野に入れています。現地のメーカーからも「日本独特の味わいが人々の舌に合うはずだ」と太鼓判を押されており、スイーツを通じた文化交流としての側面も期待できるでしょう。私自身の見解としても、単にモノを売るだけでなく、現地の企業と協力して「現地生産」の形を取ることは、輸送コストの削減や雇用の創出にも繋がり、非常に賢明な戦略だと感じます。
「木のオーナー制度」で安定した農業経営をサポート
もう一つの目玉である「みかん」については、さらにユニークな手法が導入されます。2020年以降、アゼルバイジャンの人々を対象に三重県のみかんの木の「オーナー」を募る制度を開始する予定です。これは、特定の木の所有権を一定期間購入することで、収穫された果実やジュースなどの加工品を受け取れる仕組みです。農家にとっては収穫前に売上が確定するため、経営の安定に直結する大きなメリットがあります。生産者の顔が見える安心感は、海外の消費者にとっても魅力的に映るはずです。
さらに、オーナーとなった人々を日本へ招き、実際にみかん産地を訪れる見学ツアーも計画されています。これこそが旅行会社であるHISの本領発揮と言えるでしょう。「モノの輸出」をきっかけに「人の訪れ」を作り出すこのサイクルは、地域経済の活性化において理想的な形です。山野辺淳取締役上席執行役員は、初年度に8000万円、5年目にはその10倍から15倍の規模を目指すと意気込んでおり、旅行会社のノウハウが日本の農産物輸出に革命を起こす日は近いかもしれません。
拡大する旅行会社の輸出支援サービス
こうした動きはHISに限ったことではありません。ライバルであるJTBも、訪日観光客をターゲットにした越境EC(インターネットを通じた国際的な電子商取引)サイトを運営しています。旅行者がサイトで予約したイチゴやぶどうを、帰国時に空港で受け取れるサービスは高い人気を博しているようです。しかし、HISのように現地のインフラに深く入り込み、市場調査やマーケティング(消費者が何を求めているかを探る活動)まで担う姿勢は、これまでにない深いコミットメントと言えます。
アゼルバイジャンのように、日本との繋がりがまだ薄い地域にこそチャンスがあると見抜く先見明は、まさに開拓者精神の表れでしょう。人口減少に悩む日本の地方自治体にとって、HISのようなグローバル企業がパートナーとなることは、世界への扉を開く鍵となります。旅行会社が「旅」という枠組みを超え、日本の地方と世界を多角的に結びつけていく流れは、今後ますます加速していくに違いありません。
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