日本の教育界に大きな衝撃が走りました。2019年12月17日、萩生田光一文部科学大臣は、2020年度からスタートする「大学入学共通テスト」において導入予定だった国語と数学の記述式問題について、実施を見送ることを正式に発表したのです。
この決定を受けて、SNS上では「受験生が振り回されすぎていて可哀想」「公平性を考えれば妥当な判断だ」といった、安堵と困惑が入り混じった声が数多く上がっています。約50万人もの受験生が挑む巨大な試験において、記述式という形式が抱える構造的な課題が、ついに限界を迎えた形となりました。
萩生田大臣は会見の中で、採点ミスを完全にゼロにすることや、受験生自身が行う「自己採点」の精度を劇的に向上させることは困難であると説明しました。一度「まっさらな状態」に戻し、導入の中止も視野に入れて再検討する方針です。これにより、新しい共通テストは現行のセンター試験と同様、すべてマークシート方式で幕を開けることになります。
50万人の採点を支える「8000人の壁」と精度の懸念
そもそも、2017年7月に導入が決定された当初から、専門家の間では採点体制への不安が叫ばれていました。約20日間という極めて短い期間で50万通もの答案を採点するには、実に8000人から1万人規模の採点者が必要となります。これほど大量の人員を確保しながら、採点の「ブレ」をなくし、質を均一に保つことは至難の業です。
ここでいう「採点のブレ」とは、採点者の主観によって点数が左右されてしまう現象を指します。数学の数式や国語の短文であっても、正解の解釈が分かれるリスクは拭えません。また、受験生が自分の得点を正確に把握できない「自己採点との不一致」が起きれば、出願先の選択を誤らせるという致命的な問題に直面してしまいます。
文部科学省はこれまで、国語の文字数を減らしたり、数学を数式のみに簡略化したりといった対策を講じてきましたが、抜本的な解決には至りませんでした。テスト理論を専門とする南風原朝和・東京大学名誉教授も、専門性の高い採点者が一貫性を持って評価してこそ記述式は成立すると指摘し、数十万人規模の試験には不向きであるとの見解を示しています。
問われる「思考力」の測定方法と大学入試の未来
今回の改革の背景には、グローバル化する現代社会を生き抜くために必要な「表現力」や「思考力」を、入試を通じて底上げしたいという強い狙いがありました。しかし、英語の民間試験活用に続く今回の見送りにより、共通テストが担うべき役割は、再び大きな議論の渦中にあります。
私は、この一連の騒動こそが日本の教育が抱える「公平性への過度な執着」と「質の高い評価」のジレンマを象徴していると感じます。一律の試験で高度な能力を測ろうとすること自体に無理があるのではないでしょうか。萩生田大臣が提案するように、今後は各大学が独自の個別試験で記述式を積極的に活用し、それぞれの特色に合わせた選抜を行うことが、本来あるべき姿なのかもしれません。
2019年12月18日現在、文部科学省は年内に新たな検討会議を設置し、記述式のあり方を議論し直すとしています。単なる知識の暗記に留まらない、真の「学ぶ力」をどう評価していくべきなのか。受験生の努力が正当に報われる制度の構築に向けて、私たちはこの議論を慎重に見守る必要があるでしょう。
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