2019年10月の台風19号は、東日本の各地に甚大な爪痕を残しました。福島県郡山市に位置する「中央工業団地」もその例外ではなく、大規模な冠水被害に見舞われたことは記憶に新しいでしょう。この未曾有の災害を受け、日本を代表する電機メーカーである日立製作所が、同地にある主力拠点を県外へ移転させるという、地域経済にとって衝撃的な方針を固めたことが判明しました。
日立製作所が郡山市に対して事業継続の条件を提示したのは、工場が停止してから1ヶ月以上が経過した2019年11月27日のことです。企業側は「働く従業員の安全確保が何よりも優先されるべき事項である」と強く主張しました。そして、操業を再開するための判断材料として、年内に具体的かつ納得感のある洪水防止策を提示するよう、市側に異例の要望を行っていたのです。
SNS上では、このニュースに対して「雇用への影響が心配だ」という悲痛な声が上がる一方で、「これだけの浸水被害を目の当たりにすれば、企業の決断は合理的だ」といった冷静な意見も多く見受けられます。企業の社会的責任を考えれば、従業員を危険にさらしてまで操業を強行することはできないという、現代社会の厳しいリアルが浮き彫りになった格好と言えるのではないでしょうか。
インフラ整備の壁と立ちはだかる「縦割り行政」の課題
日立製作所の切実な要望に対し、郡山市は極めて難しい立場に立たされました。そもそも氾濫した阿武隈川などの河川管理は、国や県が担っています。市単独の権限では抜本的な治水対策を即座に約束することは不可能に近く、2019年末という期限までに企業を納得させる回答を用意できなかったものと推測されます。結果として、日立は2019年12月20日に正式に移転の方針を発表するに至りました。
ここで注目すべき「治水」という言葉は、堤防の整備やダムの建設によって洪水を防ぎ、人々の暮らしを守るための活動を指します。一自治体の努力だけでは限界があるため、広域的な連携が不可欠ですが、スピード感を求める民間企業との温度差が生じてしまったのは残念でなりません。企業誘致による地域活性化を掲げる自治体にとって、災害リスクへの対応力こそが最大の競争力になる時代が到来しています。
私は、今回の日立の決断を「地方見捨て」と批判するのではなく、官民が一体となって防災インフラをどうアップデートすべきかという教訓にすべきだと考えます。確実な安全が保証されない限り、どれほど魅力的な補助金があっても企業は定着しません。今後は「納得できる対策」をいかにスピード感を持って提示できるかが、地域経済を守るための最優先課題となることは間違いないでしょう。
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