2020年夏の東京五輪開催まで、残すところあとわずかとなりました。世界中の注目が集まる中、都心の交通混雑や鉄道のパニックを回避するため、企業にはこれまでにない柔軟な対応が求められています。そんな中、リコー株式会社が打ち出したのは「本社を一時閉鎖し、約2000人の社員が自宅等で働く」という、まさに働き方の常識を覆す大胆な決断です。
同社の人事部長を務める児玉涼子氏は、この挑戦を単なる混雑緩和への協力に留めず、新しい働き方を加速させる絶好のチャンスだと捉えています。すでに2018年04月にはテレワークの対象者を拡大し、現在では5000人以上が制度を利用しているといいます。SNS上でも「これほどの規模で本社を閉めるのは英断だ」「働き方のモデルケースになるのでは」と、その先進性に期待を寄せる声が数多く上がっています。
業務効率を下げない!ITツールとマネジメントの工夫
一斉テレワークを成功させる鍵は、万全なIT環境の構築にあります。リコーでは全社員にノートパソコンを配布しており、「Microsoft Teams」や「Skype」といったITツールを駆使しています。これらはビジネスチャットやビデオ通話を行うためのシステムで、物理的に離れていても「誰が何をしているか」をリアルタイムで把握することが可能です。チームの予定共有にはアウトルックを活用し、業務の透明性を確保しています。
山下良則社長も「どんどんやってみよう」と後押しするこのプロジェクトですが、課題も浮き彫りになってきました。例えば、決算期の経理作業といった物理的な書類や特殊な業務フローが伴う仕事のデジタル化です。これまでは対面指導が必須とされてきた新入社員についても、本社閉鎖期間中はテレワークの対象となるため、オンラインでの育成という新たな壁に挑むことになります。
2019年11月15日には、予行演習として本社の一日閉鎖が実施されました。これは災害時の「事業継続計画(BCP)」、つまりトラブル時でも事業を止めないための訓練としての側面も持っています。複合機などのオフィスソリューションを提供するリコーだからこそ、自らが「場所にとらわれない働き方」を体現し、そのノウハウを社会へ還元しようとする強い意志が感じられます。
社内副業と管理職の進化が創る「個が輝く」組織
さらにリコーは2019年04月から、部署の枠を超えて活躍できる「社内副業制度」を導入しました。キャリアカウンセラーの資格を持つ社員が専門部署を支援したり、社内向けソフトウェアを自発的に開発したりと、個人の才能を最大限に引き出す環境が整いつつあります。しかし、働き方が多様化する一方で、上司が部下の動きを見守る「マネジメント」の難易度は格段に上がっているのが現実です。
人事部としては、管理職のスキルアップ支援を強化する一方で、求める役割を数値化し、期待に満たない場合は交代も辞さないという厳しい姿勢を見せています。編集者としての私の視点では、この「自由と責任」の明確な線引きこそが、日本の古い労働慣習を打破する突破口になると考えます。五輪をきっかけとしたこの壮大な実験が、日本の「働く」をアップデートする歴史的な分岐点になることは間違いないでしょう。
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