人口およそ5200人の静かな山あいの町、徳島県神山町がいま、芳醇な麦の香りに包まれています。この地でクラフトビール醸造所「KAMIYAMA BEER(カミヤマビール)」を切り盛りするのは、アイルランド出身のスウィーニー・マヌスさんと、妻のあべさやかさん夫妻です。2018年7月1日の開業以来、多い日には100人もの人々が訪れる人気スポットとなっており、町外からのファンだけでなく地元の皆様も集う賑わいの拠点に成長しています。
マヌスさんが手がけるビールは、小規模な醸造所で職人がこだわりを詰め込んで作る「クラフトビール」です。オランダ居住時代から自家製ビールを愛してきた彼が追求するのは、神山ならではの「面白くて、美味しい味わい」に他なりません。地元の特産品であるスダチやサンショ、さらには生小麦を隠し味に使い、グラス一杯の中にこの土地の魅力を凝縮させています。こうした情熱が、訪れる人々に神山の自然を感じるきっかけを与えているのでしょう。
「地域に新しい彩りが加わった」と笑顔を見せるのは、醸造所に土地を貸している森昌槻さんです。地元の方々の温かい視線に支えられ、醸造所の軒先では季節ごとに心温まるイベントが開催されています。2019年12月には地元の女子高生たちも交流の輪に加わるなど、世代や国籍を超えた「宴(うたげ)」が広がっています。SNS上でも「神山にこんな素敵な場所があるなんて」「ビールが苦手でも雰囲気が最高」といった絶賛の声が相次いでいます。
アートがつないだ奇跡のワンチーム!神山の未来を創るコミュニティ
もともとオランダでアーティストとして活動していたお二人が神山町へ移住したのは、2016年のことでした。アートイベントをきっかけにこの地を訪れた際、多様な人々をしなやかに受け入れる町独自の包容力に魅了されたとあべさんは語ります。この場所なら自分たちの夢を形にできる、そんな確信があったのかもしれません。移住者が新しい挑戦を始める際、地元の理解を得ることは容易ではありませんが、神山町には挑戦を応援する風土が根付いています。
醸造所の建設そのものも、まさに「共創」の産物でした。デザインはオランダの知人が担当し、実際の施工にあたっては神山町の住民が理想の木材探しを手伝うなど、多大な協力を寄せてくれたのです。マヌスさんは、地元の助けがなければこの場所は存在しなかったと深く感謝しています。プロの技術と地元の知恵が融合した空間は、ただの醸造所という枠を超え、町全体の誇りとなるような温もりある建築物として完成しました。
私は、この「KAMIYAMA BEER」の取り組みこそが、地方創生の理想的な形であると確信しています。単に美味しい飲み物を提供するだけでなく、そこに関わるすべての人を「ワンチーム」にしてしまう魔法のような力がこの夫婦には備わっているようです。アイルランドの伝統と日本の地方文化が混ざり合い、新しい「縁」や「援」が生まれるプロセスは、全国の過疎化に悩む自治体にとっても、希望を照らす大きな光となるはずです。
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