かつて、地方銀行といえば窓口での対面サービスや、企業への融資といった「本流」のイメージが一般的でした。しかし今、九州の地からその常識を根底から覆そうとしている一人の若きリーダーがいます。福岡銀行の藤原哲平さんは、2019年12月05日現在、自らが立ち上げに携わったフィンテックスタートアップ「iBankマーケティング」の事業開発部長として、関東の地方銀行を飛び回る日々を送っています。
藤原さんが目指しているのは、単なる銀行のデジタル化ではありません。「デジタル技術で一緒に課題を解決しませんか」という力強い言葉の裏には、銀行という枠組みを超えた、新しい地域経済のプラットフォームを作りたいという熱い想いが秘められています。SNS上でも「地銀がここまで攻めるとは」「アプリのUIが使いやすい」といった声が上がっており、若年層を中心にその注目度は日に日に高まっています。
ゼロからの挑戦!あつれきを乗り越えた「スマホ銀行」への道
このプロジェクトが産声を上げたのは2015年のことです。当時の地方銀行は、人口減少や超低金利政策による収益悪化という、出口の見えないトンネルの中にいました。そんな中、メガバンクでの海外経験を経て帰国した藤原さんに下されたミッションは「5年後、10年後の銀行の姿を考えろ」という極めて抽象的で、かつ重い課題だったのです。
藤原さんが導き出した答えは、フィンテックを活用した「スマホ銀行」の構築でした。ここでいうフィンテックとは、金融(Finance)と技術(Technology)を融合させた造語で、スマートフォン一つで決済や資産管理を完結させる革新的なサービスを指します。しかし、当時はまだこの言葉すら一般に浸透しておらず、社内では「本業とは関係のない色物」として冷ややかな視線を向けられることも少なくありませんでした。
2016年04月、サービス開始までわずか3ヶ月という土壇場でiBankマーケティングは設立されました。藤原さんはシステムの設計から当局との交渉まで奔走し、時には既存部署とのあつれきを恐れず、優先順位の「割り込み」を行うこともありました。それは、迫り来るデジタル化の波に対して「今やらなければ銀行に未来はない」という強い危機感があったからに他なりません。
「亜流」が「本流」へ!iBankが変える銀行員のキャリアパス
サービス開始直後、アプリのダウンロード数は想定の半分に留まり、藤原さんは理想と現実のギャップに苦しみました。しかし、2018年春に沖縄銀行との連携を実現させると、その利便性は全国へと波及していきます。2019年12月05日現在、利用者は100万人達成を目前に控え、アプリを通じた貯金総額は約150億円という巨大な規模にまで成長を遂げました。
特筆すべきは、この挑戦が銀行員の意識そのものを変え始めている点です。かつての花形であった法人融資ではなく、自らiBankでの勤務を志望する若手行員や就職活動生が急増しています。クラウドサービスを活用した新しいビジネスモデルの検討など、これまでの銀行の常識では「あり得なかった」スピード感が、組織全体にポジティブな刺激を与えているのです。
私自身の考えを述べれば、これからの地方銀行に必要なのは「安定」ではなく「変容」です。藤原さんが語るように、リクルートのような「変化を生み出し続ける仕組み」こそが、衰退する地域経済を救う唯一の鍵になるでしょう。一人の「亜流」が本流を飲み込み、新たなスタンダードを作る。私たちは今、その歴史的な転換点を目撃しているのかもしれません。
コメント