日本の高等教育界がいま、大きな転換期を迎えています。独自の近代的な教育システムで経済大国を支えてきた日本ですが、近年は欧米のトップ校がさらに先を走り、新興国の大学も猛追している状況です。そんな危機感の中、2018年の就任以来「世界で輝く大学」を目標に掲げて改革を牽引するのが、早稲田大学の田中愛治総長です。SNS上でも「早稲田の国際化の本気度がすごい」「日本の大学全体が変わるきっかけになってほしい」と、大きな期待と注目が集まっています。
田中総長が最優先課題として挙げるのが、世界に通用する優秀な教員の確保です。2020年からは「世界で評価される人材の採用」へと目標をさらに引き上げ、全学で「テニアトラック制度」と国際公募を普及させる方針を打ち出しました。テニアトラック制度とは、若手教員を数年間の試験雇用期間中に教育や研究面で厳しく審査し、高い評価を得た場合のみ終身雇用の本採用とする仕組みのことです。妥協のない厳格な採用プロセスを経ることで、大学全体の研究水準を世界レベルへ引き上げる狙いがあります。
文理の壁を打ち破る!実社会で役立つ最強のアカデミック・ツール
優れた教員が集まる好循環を作る一方で、早稲田大学は学生の「基盤教育」にも徹底的に力を注いできました。これは、学部に関わらず大学や社会で知的職業に就くために必須となる基礎能力のことで、2017年までに5つの部門が整備されています。eラーニングを活用した論理的な日本語文章の作成指導をはじめ、ネイティブのインストラクターと少人数で行う英会話や、文系学生も論理的思考を鍛えられる数学基礎、さらにはビッグデータを人工知能で分析するデータ科学の入門まで、まさに時代が求める文理融合のカリキュラムです。
特に注目すべきは、2017年に設置された「データ科学センター」の存在でしょう。低学年でデータ科学の基礎を学んだ学生たちが、高学年や大学院へ進むと、このセンターを通じて専門的な研究指導を受けられる体制が整いました。例えば、クレジットカードの匿名ビッグデータをAIで解析してマーケティング戦略を練る際、商学部の知識とデータ科学の専門家が連携することで、実社会に直結する高度な分析が可能になります。これこそが、学問の領域を超えて根拠に基づいた議論ができる人材を育てる、理想的な環境だといえます。
多様性の中で揉まれる経験と、自立した大学経営への覚悟
こうした教育改革の基盤にあるのは、圧倒的な「国際化」への意識です。これからの時代を生きる若者は、嫌応なしに地球規模の課題と向き合うことになります。人類が直面する正解のない問いに対して、世界の人々が納得する解決策を提案するためには、学生時代に多様性を肌で学ぶ経験が欠かせません。実際に2018年度には7942人もの留学生を受け入れ、4629人の学生を海外へ送り出しており、キャンパスの国際化は急速に進んでいます。
しかし、これほど壮大な施策を維持するためには、学生の授業料だけに頼るわけにはいきません。早稲田大学では、資金の積極的な投資運用を進めると同時に、国内外での寄付金集め(ファンドレイジング)をダイナミックに展開していく構えです。現在の高等教育行政のサポートに過度な期待ができない以上、大学が自ら知恵を絞り、財源を確保して汗を流すのは当然の責務だといえます。欧米の模倣ではなく、独自の工夫で10年以上の歳月をかけて教育環境を整えた早稲田大学の挑戦は、日本の全大学の模範となるはずです。
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