自動車タイヤ向けの汎用ゴム事業が苦戦を強いられる中、素材メーカーの大手である日本ゼオンが次なる成長への舵を切っています。2020年度に連結売上高5000億円以上という高い目標を掲げる同社ですが、2019年度の売上高見通しは3300億円にとどまる見込みです。世界景気の減速や米中貿易摩擦の影が忍び寄る厳しい事業環境において、田中公章社長は「目標は下げない」と強い決意を語っています。
この逆境を跳ね返す鍵として期待を集めているのが、スマートフォンや液晶テレビ、電気自動車(EV)向けに好調を維持している「高機能材料事業」です。SNS上でも「日本の素材メーカーの技術力はやっぱり強い」「地味に見えて生活を支える次世代技術」と、同社の技術力に対して多くの期待が寄せられています。既存の市場にとどまらず、新しい領域へ果敢に挑戦する姿勢が今、多くの注目を集めているのです。
新市場を切り拓く魔法の素材「COP」と先進運転支援への貢献
日本ゼオンが次なる成長の柱として見据えるのが、光学や医療分野における新たな用途の開拓です。その代表例が「シクロオレフィンポリマー(COP)」と呼ばれる高機能樹脂になります。これは優れた透明性や耐熱性、低い吸水性を備えたプラスチック素材のことです。従来のガラスに代わる軽量な素材として、同社はこのCOPを注射器(シリンジ)の材料として医療業界へ提案し、学会などでも大きな反響を呼んでいます。
さらに、自動車業界で普及が進む「先進運転支援システム(ADAS)」の分野でも、同社の技術が不可欠となっています。これは自動ブレーキや車線逸脱警告など、ドライバーの安全をサポートするシステムのことです。同社が開発した新型レンズ材料は車載カメラのセンサー用に採用されており、過酷な高温環境でも変形や変色が少ないという圧倒的な強みを持っています。自動運転市場の拡大とともに、この需要はさらに高まるでしょう。
編集者の視点:足元を固める設備投資と未来への布石
目標達成には1年で約1700億円の増収が必要であり、非常に高いハードルであることは間違いありません。しかし、同社は2021年度に向けてCOPの生産設備を4万1600トンへと増強する計画を進めるなど、攻めの姿勢を崩していません。住友化学との事業統合による低燃費タイヤ向けの新素材開発や、ガソリン・ディーゼル車向けの高機能特殊ゴムの設備増強など、基幹事業のブラッシュアップにも余念がない状況です。
目先の数字にとらわれず、中長期的な成長を見据えてEVや自動運転、医療といった成長産業へとリソースを集中させる戦略は、非常に理にかなっていると感じます。激動の時代において、自社の強みである高機能材料をいかに多角化できるかが、今後の勝敗を分けるのではないでしょうか。M&Aを含めたダイナミックな裾野の拡大が、同社をさらなる高みへと押し上げる起爆剤になるに違いないと、私は確信しています。
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