2000年から約20年という長きにわたり、富士フイルムホールディングスのトップとして圧倒的な存在感を放ち続ける古森重隆会長兼最高経営責任者が、いよいよ本格的な後継者指名へと動き出しました。足元の業績はきわめて好調で、株価は上場来の高値を更新し、本業の儲けを示す連結営業利益も過去最高を記録する見通しです。それでもなお、カリスマは「まだ挑戦が必要だ」と気を引き締めます。長期政権による功罪が議論される中、次なるリーダーへ託す条件に注目が集まっています。
インターネット上やSNSでも、この後継者問題は大きな話題を呼んでいます。「デジタル化の荒波を乗り越えた古森氏の後任はプレッシャーが凄そう」「カリスマの次を担うリーダーの育成はどの企業でも本当に難しい課題だ」といった、世代交代の難しさに共感する声が多数寄せられています。実績が頂点にある今だからこそ、次の時代を担う経営体制の確立へ向けた一挙手一投足に対して、市場からの関心も一段と高まっている様子がうかがえます。
写真フィルムの消失から奇跡の復活を遂げた成功体験
古森氏が後継者に求める資質は、自らの壮絶な経験に基づいています。同氏が2000年に社長へ就任した直後、かつての稼ぎ頭だった写真フィルム市場は毎年2割から3割という驚異的なスピードで縮小し、2004年度には写真関連事業が赤字へ転落しました。まさに本業消失という絶体絶命の危機において、社内の優れた技術を徹底的に洗い出し、化粧品や医薬品、デジタル画像処理といった全く新しい分野を開拓したのです。この奇跡の方向転換が、現在の躍進の礎となっています。
こうした経験から、古森氏は次期トップの条件として「ロマンと若干の冒険心」を掲げています。ここで言う「ロマン」とは、企業のあるべき理想像を熱く語る力のことです。痛みを伴う構造改革を進めるには、社員の心を動かす夢が欠かせないと考えているのでしょう。また、巨額の投資や新たな勝負に打って出る決断力を「若干の冒険心」と表現しています。現状維持に満足せず、世界的な競争を勝ち抜くためには、守りに入らない姿勢が不可欠だという強いメッセージです。
次期トップ候補とカリスマ経営が抱える特有のジレンマ
現在、次期CEOの有力候補と目されているのが、65歳の助野健児社長兼最高執行責任者と、67歳の玉井光一富士ゼロックス社長の2人です。古森氏は、助野氏の卓越した判断力や数字への強さを評価する一方、玉井氏の機械への強さや生き生きとした行動力を称賛しています。さらに、自身との実力差を補うために、複数の優秀なメンバーによるチーム体制で経営を担わせる構想も明かしており、集団指導体制への移行も視野に入れているようです。
しかし、偉大なカリスマからの世代交代には常にリスクが付きまといます。実際に、2018年には再生医療事業を牽引してきた主要幹部が突如として要職を外れ、周囲が困惑する一幕もありました。在任期間が長くなるほど組織への影響力は強まり、市場もトップ交代を警戒するため、後継者選びは先延ばしになりがちです。古森氏自身、「長期政権には必ず後遺症が残る」と過去に語った経験があるからこそ、この事業継承のジレンマをどう克服するのか、その決断の瞬間が注目されます。
編集部EYE:変革のDNAを継承する真の「サクセッション」へ
富士フイルムが成し遂げた「本業の再定義」は、日本のビジネス界における最大の成功ストーリーの一つです。しかし、強力なリーダーシップの裏には、後継者がその影に隠れてしまいがちという課題も存在します。企業が永続的に成長するためには、カリスマの経営手法をそのまま模倣するのではなく、激変する市場へ果敢に立ち向かう「変革のDNA」そのものを引き継ぐ必要があります。このサクセッションが成功するか否かが、今後の企業の命運を分けるでしょう。
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