事務機器業界に激震が走るニュースが飛び込んできました。富士フイルムホールディングスは2020年01月06日、アメリカのゼロックス社との間で結んでいた事務機器の販売提携を、2021年03月末で打ち切ることを発表したのです。これにより、長年親しまれてきた「ゼロックス」というブランドの冠を外すことになります。同時に、これまで両社が守ってきた販売地域の境界線もなくなるため、世界の市場を舞台にした新たな戦いの幕が開けることになります。
ネット上でも「一つの時代が終わった」「名前が変わって認知度はどうなるのか」といった驚きや、今後の展開を注視する声が多数上がっています。両社は1962年に合弁会社である富士ゼロックスを設立して以来、緊密な協力関係を築いてきました。実は、製造部門をほとんど持たないアメリカのゼロックス社に対し、日本の富士ゼロックスが開発や生産を一手に引き受けて製品を供給するという、日本側の技術力が支える関係性だったのです。
ブランド料解放の裏に潜む「世界市場」という高い壁
富士フイルムがこの決断を下した最大の理由は、毎年支払っていた巨額のブランド使用料にあります。その額は年間で100億円強にものぼり、事務機器部門の利益の約1割に匹敵する重い負担でした。日本側には「自分たちの技術力の方が勝っている」という確固たる自負があり、この費用に対する不満が背景にあったようです。今回の提携解消によって、この莫大なコストが削減できることは大きなメリットと言えます。
しかし、手放しでは喜べない厳しい現実も待ち受けています。これまでアジアは富士フイルム側、欧米はゼロックス社側と棲み分けられていましたが、今後は互いの領域へ進出することになります。専門家の間では、成熟しきった欧米市場へこれから乗り込む富士フイルムよりも、成長が期待できるアジア市場へ参入できるゼロックス社の方が優位ではないか、という懸念の声も上がっています。世界シェアの維持には、欧米での自前ルートの確立が急務です。
富士フイルムは他社ブランドとして製品を製造するOEM(相手先ブランドによる生産)の拡大や、海外企業の買収による販売網の獲得を狙っています。現に2019年にはオーストラリアのITサービス企業を買収し、拠点の確保に動きました。しかし、競合他社からは「看板がなくなれば新規開拓は極めて難しい」と冷ややかな視線も注がれています。ペーパーレス化で市場全体が縮小する中、この挑戦は非常に険しい道のりになるでしょう。
筆者の視点として、今回の決断は短期的なコスト削減以上に、自社の技術力への絶対的な自信の表れであり、評価すべき攻めの姿勢だと感じます。しかし、知名度抜群のブランドを失う影響は計り知れません。世界的なペーパーレスの波に逆らって生き残るためには、単なる機器の販売にとどまらず、企業の業務効率化を総合的に支えるITソリューション(情報技術を活用した課題解決サービス)の提案力をどれだけ早く構築できるかが勝負の分かれ目となるはずです。
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