2020年1月22日、大相撲初場所10日目で大きな感動を呼ぶドラマが生まれました。負け越してしまえば十両陥落という厳しい崖っぷちに立たされていた幕尻の徳勝龍関が、見事に執念の白星を挙げたのです。前日の段階ですでに勝ち越しを決めていた彼ですが、その表情に一切の緩みはありません。「手を抜いて良い相撲など一戦も存在しない」と語るその眼光からは、凄まじいまでの闘志が満ちあふれていました。
この日の対戦相手は、過去の幕内対戦成績で6戦全敗と、まさに天敵とも言える千代丸関でした。立ち合いの瞬間、徳勝龍関は相手の激しい突っ張りに上体を起こされ、一気に土俵際へと押し込まれる劣勢に立たされます。しかし、ここからの粘り腰が今場所の彼の強さです。軽妙なフットワークで左側へ回り込んで相手の圧力をかわすと、渾身の力で右の突きを放ちました。体勢を崩した千代丸関は、そのまま勢い余って土俵の外へと転がり落ちていきました。
見事な「突き落とし」で天敵を撃破し、優勝戦線のトップを守り抜いた徳勝龍関ですが、試合後のコメントは驚くほど謙虚なものでした。「まだまだこれから。自分は番付の最下層ですから」と、はにかむような笑顔を見せる姿が印象的です。ここで言う「幕尻(まくじり)」とは、大相撲の最上級リーグである幕内の中で、最も格下の位置を示す専門用語です。実力者がひしめく最高峰の舞台で、一番下の立場から快進撃を続ける姿は、多くの判官びいきのファンを熱狂させています。
SNS上でもこの劇的な勝利は大反響を呼んでおり、「この泥臭い粘り強さこそが相撲の醍醐味だ」「33歳のベテランが輝く姿に勇気をもらえる」といった、熱い応援の声が相次いで投稿されています。実は彼が最後に幕内で勝ち越しを決めたのは、約3年前となる2017年の夏場所まで遡ります。その後は、幕内の1つ下の階級である「十両」で苦しむ時期が長く続き、一時は「もうずっとこのまま這い上がれないのではないか」と、深い孤独と不安に苛まれたこともあったそうです。
しかし、彼は決して腐りませんでした。同世代には大関の豪栄道関や栃煌山関といった、かつて大相撲の最高位を争う「三役」を経験した華々しい実力者たちが揃っています。彼らの背中を見つめながら、「自分だって負けていられない」という静かな情熱の炎を絶やさずに燃やし続けてきたのです。年齢を言い訳にせず、逆境を跳ね返そうとする泥臭い生き様は、現代社会で日々戦う私たちの胸にも深く刺さるものがあります。
そんな彼が今場所、これほどまでに強靭な精神力を発揮している背景には、胸に秘めた悲痛な決意がありました。長年、近畿大学の相撲部で彼を我が子のように熱心に指導してくれた恩師の伊東勝人監督が、2020年1月に入ってから急逝されてしまったのです。「勝ち越したら真っ先に良い報告を届けたい」と願っていた徳勝龍関にとって、その夢を直接叶えることはもうできません。
それでも彼は天国の恩師へ向けて、心の中で強く誓っています。「不甲斐ない相撲を取ってしまったら、監督に鼻で笑われてしまう」という畏敬の念が、現在の彼の最大の原動力になっているのは間違いありません。哀しみを力に変え、引き締まった表情で終盤戦へと挑む徳勝龍関の挑戦は、単なるスポーツの枠を超えた人間ドラマとして、これからも多くの人々の心を揺さぶり続けるでしょう。
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