長年過ごした思い出の街を久しぶりに訪れたとき、変わらない景色に安心感を覚える一方で、思いがけない進化に驚かされることがあります。東北大学名誉教授の原山優子さんが、かつて家族と生活を共にしたスイスのジュネーブを2019年11月に訪問したエピソードは、まさにそんな体験の連続でした。空港から息子夫婦の自宅へと向かう道すがら、子供たちの学校や週末に通ったスーパーなど、懐かしい記憶が次々とよみがえります。何十年という歳月が流れても、ジュネーブの美しい街並みは当時の姿をほぼそのまま留めていたのです。
しかし、ノスタルジーに浸る原山さんの目に、街のさりげない変化が飛び込んできました。環境への配慮から路面電車の路線が拡張されていたほか、通い慣れたスーパーの入り口には見慣れない光景が広がっていたそうです。SNS上でも「ヨーロッパの古い街並みと最先端技術の融合は素晴らしい」「環境対策の手際が見事」と、変わりゆく街の姿勢に感嘆する声が多数上がっています。歴史を守りながらも、持続可能な社会に向けて着実に歩みを進める姿は、現代の都市が目指すべき理想像の一つと言えるでしょう。
セルフレジの先を行く!驚きの完全非接触ショッピング
原山さんが最も衝撃を受けたのは、お馴染みのスーパーに導入されていた「ワイヤレスバーコード読取機」によるスマートな買い物様式です。これは、買い物客が自ら端末を手に持って店内の商品をスキャンしながらカゴに入れ、最後は専用端末でカード決済を済ませるシステムを指します。驚くべきことに、店舗を出る際の商品チェックは一切行われません。つまり、店員と一度も接触することなく買い物が完結してしまうのです。この驚きのデジタル化は、高齢者の方々までもが日常生活の中でごく自然に使いこなしていました。
この画期的なシステムが成立する背景には、スイスの人々に根付いている「自らを律する」という高い行動規範が存在します。実はジュネーブの電車には改札口がありません。乗客が有効な乗車券を持っていることを前提として街が機能しており、たまに行われる抜き打ち検札が不正の抑止力になっています。ネットでは「性善説で成り立つ社会が羨ましい」「信頼関係があるからこそのテクノロジー」といった意見が寄せられました。これこそ、お互いの信頼があって初めて成り立つ、究極の効率化と言えます。
これぞ理想の社会!デジタルがもたらす「人中心のイノベーション」
この最先端のシステムを目の当たりにして、「店員さんはどこへ行ってしまったのだろう」という疑問を抱く方もいるかもしれません。しかし、店舗の出口には従来のクラシックなレジも数台しっかりと残されていました。そこでは、店員さんがお客さんと楽しそうにおしゃべりを交わしながら、一品ずつ丁寧に商品をスキャンする温かい光景が見られたのです。効率化を突き詰める一方で、人と人との繋がりを大切にする空間が守られている事実に、原山さんは深い感銘を受けました。
利便性だけを追求して誰かを置き去りにするのではなく、対話や温もりを求める人のための選択肢を残しておく姿勢には、私自身も非常に感銘を受けました。これこそが、テクノロジーが人間の生活を豊かにするために寄与する「人中心のイノベーション」の真髄ではないでしょうか。原山優子さんが2020年1月9日の寄稿で示してくれたこのジュネーブの姿は、急速なデジタル化が進む日本にとっても、人間らしい温かさを忘れない社会づくりのための大いなるヒントになるはずです。
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