台湾が誇る世界的な巨大小売・製造企業、鴻海精密工業の創業者である郭台銘(テリー・ゴウ)氏が、再び経営の一線へと舞い戻ってきました。2019年6月の株主総会でトップの座を退き、「二度と経営に戻らない」とまで断言していたカリスマの復帰劇に、経済界には大きな衝撃が走っています。政界進出を狙った総統選への挑戦が不発に終わり、さらに鴻海自体の業績も低迷していることが、今回の電撃的な本格復帰を決断させた背景にあるのでしょう。
2020年1月22日、台北市内で開かれた全社忘年会には従業員や家族ら3万人以上が集結しました。久々に公の場に姿を現した郭氏は「私は鴻海の先頭に立って導く虎になる」と力強く宣言し、会場は大いに沸き立ったのです。このカリスマ復活のニュースに対し、SNS上では「やはりこの人がいないと始まらない」という期待の声がある一方で、「一度退任したトップの復帰は、後継者の育成や組織の若返りを阻害するのではないか」といった厳しい意見も散見され、賛否が真っ二つに割れています。
盟友・孫正義氏をモデルにした世界展開ファンド構想の全貌
ただし、郭氏はかつてのように日々の細かな実務を直接率いるわけではありません。日常の経営実務に関しては、昨年後継者に指名された劉揚偉董事長に引き続き一任する方針です。では、復帰したカリスマは何を行うのでしょうか。郭氏が描く新たな戦略は、世界的な投資ファンドを立ち上げ、出資を通じてグループ全体の成長を牽引するというダイナミックな試みです。具体的には、アメリカや日本、ドイツ、そしてイスラエルのハイテク企業をターゲットにした独自ファンドの準備を進めていると公言しました。
この構想から誰もが連想するのが、郭氏の盟友であるソフトバンクグループの孫正義会長兼社長の存在でしょう。孫氏は携帯通信事業から、投資ファンドの運営へと経営の軸足を大きく移しました。その中核である「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」には鴻海も出資しており、郭氏がこれをモデルにしていることは確実です。二人は電話一本ですぐに連絡を取り合える極めて親密な間柄であり、今後は世界中のハイテク企業への投資において、これまで以上に緊密な連携を進めていくとみられます。
アップル頼みからの脱却と受託生産モデルが迎えた限界
郭氏がこのようなファンド構想を急遽ぶち上げた背景には、鴻海が直面している深刻な収益力の伸び悩みがあります。同社は米アップル社のiPhoneの生産を引き受ける「受託生産」ビジネスで急成長を遂げ、2016年12月期まで6期連続で純利益の過去最高を更新してきました。受託生産とは、他社ブランドの製品を自社の工場で代わりに製造するビジネスモデルのことです。しかし、現在のスマートフォン市場はすでに飽和状態にあり、さらに中国国内の人件費高騰というダブルパンチに見舞われています。
市場の予測では、2019年12月期も3期連続の減益が見込まれており、これまでのビジネスモデルが限界に達していることは火を見るより明らかです。生き残りのためには、何としてでも「目先」を変えなければなりません。私は、今回のファンド構想こそが、鴻海が製造業から投資会社へと生まれ変わるための背水の陣であると考えています。しかし、出資先の価値を過大評価するリスクも指摘される投資の世界は、一筋縄ではいかない茨の道となるでしょう。
相次ぐ計画の縮小と市場からの冷ややかな視線
受託生産からの脱却を狙った過去の戦略も、今のところ目立った成果を上げていません。自社ブランドを獲得するために2016年に買収したシャープは収益が伸び悩んでおり、株価も買収当時から停滞したままです。さらに、アメリカのトランプ大統領とともにぶち上げたウィスコンシン州での巨額の液晶パネル工場建設計画も、当初の雇用約束が果たされていないとして現地メディアから厳しい疑念を突きつけられており、計画は大幅に縮小したと囁かれています。
自動車大手との電気自動車(EV)合弁事業構想も発表されましたが、相手方との温度差が露呈するなど、これまでの鴻海の戦略はどこか中途半端な印象を拭えません。そのため、今回の郭氏の熱い意気込みに対しても、市場の反応は極めて冷静です。現地の専門家からは、これからは後継者である劉氏が郭氏とうまく役割を分担し、事業の「選択と集中」をいかに冷徹に進められるかが浮上のカギになると分析されており、カリスマの復活だけで即座に業績が回復するわけではないという厳しい現実が浮き彫りになっています。
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